K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

戦車兵として(出会い編)

どんなゲームでも長くやっていると、始めた頃の熱を失って、いつの間にか遊ばなくなっていることが多い。いわゆる「引退」というやつ。
ただ単に時間がなくなったのか、ゲーム性に嫌気が差したのか、理由はいろいろあるだろう。
たいていのゲームは二年くらい続けば長いほうだから、それ以上にわたって遊んでいるゲームについては、特別な想いがある。

あれは2015年12月のことだった。

 

 

『ガールズ&パンツァー』というアニメの劇場版がすごい、と巷で話題になっていた。
テレビシリーズの放送は2012年だったのだけれど、私は未視聴であったから、劇場版の公開直後は取り立てて興味を持っていなかった。映画を観に行くとなると、まずテレビシリーズを把握しておく必要がある。たとえ1クール分であっても時間的に負担が大きいと感じて、気が向かなかったのだ。大して忙しくもないのに。
何か、きっかけがなければ。そう思っていた。
けれど、しばらく経って状況は一変する。きっかけができた。

ガルパンはいいぞ

誰も彼もがそんなツイートをするようになる。
気になって仕方ない。私は、一度気になったものを放置できない性分だった。
見ないわけにはいかないじゃないか。

かくして一晩でテレビシリーズを見終えて、すっかりガルパンというコンテンツにハマり、映画館の予約もした。
ただ、戦車という、それまで自分の中になかった世界は非常に魅力的で、予約した日を待つことができなかった。どうやら戦車を動かせるゲームがあるらしい。しかもガルパンとコラボしているとか。なんだか面白そうだ。
そんな理由で始めてしまったのだった。思えば、下手に興味なんて持たないほうがよかったのだ。とんでもないものに手を出してしまったということを自覚したのは、手遅れになった後だった。

World of Tanks

生涯で最も遊んでいるゲームと言ってもいいかもしれない。
15対15にランダムにチーム分けされて、敵を全員撃破したら勝ち。単純なルールだ。
始めてからしばらくの間は、操作すら覚束ないまま前に出て、一方的に撃破される繰り返しだった。最初はそれだけで楽しかった。
基本プレイ無料なのだけれど、当時は、よくある無料ゲームとは一線を画すレベルのクオリティに感動した記憶もある。

ガルパンの劇場版を見て、センチュリオンという戦車に憧れた。WoTではセンチュリオンに乗ることを目指そう。そんな目標を立てることになった。*1


開始から数週間、若干寝不足になりながらも毎日のように遊んでいるうちに、戦車を動かすだけでは満足できなくなってくる。せっかくならダメージを出したいし、勝ちたい。それはゲームである以上、誰だって当たり前に考えることだ。

上達するにはどうしたらいいか、必死に考えた。多数のマップ、強いポジション、弱いポジション、戦車ごとの特性、装填時間、弾種特性、装甲圧、傾斜角度、視界システム、隠蔽率、状況判断、撃ち合いの技術……並べていけばキリがないほど、果てしなく知識が必要になってくる。
海外のうまいプレイヤーの動画を何度も見て、初動やポジションの使い方を学んだ。日本人の配信を見て、試合中盤以降の動き方を覚えようとした。
実践してみて失敗して、たまに成功する。それを無数に繰り返していくうちに、少しずつ戦績が上向いてくる。けれど知識をつけても、いちいち頭で考えているのでは追いつかないことが多い。もはや感覚を身につけるしかないのだ。

10,000戦してようやく初心者卒業と言われるくらい、このゲームは初級者に不親切だ。まともに戦うために必要な知識が複雑かつ膨大で、上級者とは戦いにすらならない。
このゲームの良いところは、外部サイトで自分のプレイヤーネームを検索すると、成績が色分けされて確認できるところにある。各車輌ごとに基準ダメージが設定されていて、それを大きく上回ると高い数値が出て色が改善される。WN8と呼ばれる、非公式のレーティングだ。*2
成績を数字で見ながら日々の成長を実感できるという点は、まるで社会の縮図のようで面白く感じた。部活や仕事などなんでもいいけれど、なんらかの活動に打ち込んでいるときに経験する「成長」と、どこか似ているのだ。
少しずつ上達しているのがわかる時期が、おそらく誰にとっても一番楽しいんじゃないかと思う。

いつしかガルパンとは関係なしに、ゲームそのものを楽しんでいる自分がいた。活躍して勝ったときの喜び、勝率が上がる嬉しさを追い求めて、ゲームをプレイする。そのうち、戦場で自分よりもうまい人と出会うことがほとんどなくなっていた。

 

ちなみにWN8のカラースケールは、上から順に
紫>青>緑>黄>橙>赤
となっている。
成績を気にしだした頃は赤の底辺だったけれど、今では青になることができた。
直近1,000戦に限れば比較的簡単に紫を出すこともできるから、もう実力の伸び代はほとんどなくなってきたように思えて、少し寂しく感じる。
ただ、総合で示される色は過去の成績すべてを含んだ平均値だから、ここから紫になるのはほとんど現実的ではない。かなりの戦闘数が必要で、もはやそれだけ遊ぶ時間も気力もないからだ。そういうこともあって、最近は上達へのモチベーションがあまりなくなってきている。


先日、戦闘数が20,000戦を突破した。
10,000戦時点のスクリーンショットと比較してみると、飛躍的な成長を遂げたことがわかる。

10,000戦

20,000戦

それにしても、費やした時間を思うと戦慄する。簡易的な計算で、一試合10分とすると200,000分……約3333時間だ。
実際には戦闘以外にも待機時間や準備時間、戦闘数にカウントされないゲームモードがあるため、4000時間くらいにはなっていそうな気がする。

なぜこのゲームにこんなにハマってしまったのか、今となってはわからないけれど、思うにWoTとは電子麻薬に近いものだ。
やめようと思っても、定期的に欲してしまう。引退したかと思ったら、いつの間にか復帰している。
引退詐欺は戦車兵にとって伝統芸能のようなものだ。


ちょっとだけ不満を書くとしたら、このゲームは人間の根本的な部分に作用する力を持っているのかもしれないということ。
プレイ中に、自分の思い通りにいかないとイライラする、なんてことは珍しくないけれど、このゲームは本能的な嫌悪感を呼び起こす。
ただ相手を蹂躙したいという欲望を喚起し、それを妨げる存在に対しては憎悪すら生み出してしまう。ゲームの仕様として、試みが失敗することが非常に多いせいで、楽しむためにやっているのに、結果的に想像を絶するほど不愉快になってしまうのだ。
他のゲームでこんな感情を経験した覚えはない。その分、うまくいったときの快感は至上の感覚とも言えるのだが、総合的に見てデメリットが大きすぎる。悪い方向に人格が変わるという説もある。

腕が上がれば上がるほど、自分にとってのハードル(最低限)が底上げされてしまうので、昔なら大喜びしていた結果でも当然のことだと思うようになる。それゆえに、うまい人であるほどストレスを感じやすく、どんどんハゲていくというジレンマを抱えているのも残念な点だ。
社会学的にはアノミーという概念で説明できそうだけれど、簡単に言えば欲望の肥大化によって起こる自己葛藤という感じだろうか。WoTに限らず、あらゆる事柄に当てはまる事象ではあるけれど、それが顕在化しやすい環境がこのゲームには備わっている。


ここ数年は上位層の引退が増加して、平均プレイヤーレベルの低下を招き、以前よりも戦場が混沌としているように思える。
ゲームの開発陣は、次から次へとゲームバランスの改変を施してきた。そのたびに不満が噴出し、ゲーム性は悪化している。はっきり言って調整力がない。悪くない調整も皆無ではないけれど、本当にごく稀だ。

もともとのゲーム性に加えて、アップデートによる不満が重なり、ゲームに対する期待や希望が以前とは比べ物にならない水準まで失墜している。
この感覚は私だけのものではなく、公式フォーラムやTwitterなどで似たような意見を見つけることができる。
昨年あたりからようやく問題点を自覚し、より良いゲームにしようという動きは見えてきたけれど、その内容には期待よりも懸念が多い。
このゲームに未来はあるのか。このゲームを続ける私を含めたプレイヤーの末路はどうなるのか。
……いや、プレイヤーに関しては自己責任以外の何物でもないのだが。

 

 

本日の絵

20200601

かなりロリっぽくなったけど、これくらいが自分の描ける幼さの限界な気がする。
ロリコンではないです。

*1:戦車は10段階の階級(Tier)に分かれていて、上位の戦車に乗るには下位の戦車で経験値を溜めて開発する必要がある。

*2:公式にもレーティングがあるが、基準が不明で実用的ではなく、謎レーティングなどと揶揄されることもある。そのため、戦車兵間で実力を見る場合にはWN8を参考にする場合が多い。