K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

恋愛模様の果てに

アニメには恋愛要素が含まれることが多い。アニメというか、どちらかと言えばライトノベルにありがちな傾向かもしれないけれど……時代や本筋にかかわらず、わりと普遍的なものとして見ることができるように思う。
そんな中で、いわゆる勝ちヒロインと負けヒロインが出てくるのは必然の流れだ。

 

勝ちヒロインとは、つまり最終的に主人公に選ばれるヒロインのことだ。
物語を豊かにするためには複数のキャラクターの相互作用が欠かせないし、物語の進行とともに複雑な男女関係、さまざまな過程を経て、特定の相手を選ぶシーンに至る。
展開によっては、メインヒロインだったキャラが選ばれず、途中から出てきたキャラが勝利を掴むなんてこともあって、結末については各キャラクターのファンによる醜い争いが繰り広げられることもある。

物語が恋愛を主軸としているかそうでないかによっても、意味合いが変わってくる。しかしいずれにせよ、長く見ているとキャラクターは視聴者の心の中に息づく存在となり、恋愛の行く末は心に影響を与える十分な材料となる。少なくとも私はそうだ。
好きなキャラクターが報われたら嬉しいし、逆なら感情がぐちゃぐちゃになるような、強い衝撃。それは何物にも代えがたい快感に他ならない。

個人的な趣味の話として、私は負けヒロインのことが好きになることが多い。好きになったキャラクターが結果的に恋愛に敗北することになるのか、あるいは負ける立ち位置にいるキャラクターだからこそ好きになるのか、それはわからない。ただ、結果として見てみると、ほとんどのお気に入りキャラクターは恋が成就していない。
失恋の瞬間こそ、女性は最も美しくなる。おそらく私には、そういう考えがある。

 

昨日、これまた随分と前の作品になるけれど、『とらドラ!』の視聴を終えた。名作として語られることの多い本作品は、以前からずっと見てみたいと思っていた。
これを高校生くらいの頃に見ていたら、きっと物凄くハマっただろうし、終盤の展開にはひたすら心を奪われることになったと思う。面白かった。
今の私は、他にもたくさんの作品を見てきた経験*1があるし、若干の古臭さのようなものを感じてしまったから、全身が震えるほどの衝撃はなかったような気がする。それなりに涙は出たし、余韻もあったけれど。

物語の構成上、逢坂大河が最後に選ばれるのはわかっていたことだった。結末自体には何も疑問などないし、すっきりとした終わり方で後味は悪くない。私が注目していたのは、だから他の二人のヒロインがどのように散っていくのか、というところだった。
大河については、好きなキャラクターではあったけれど、ヒロインというよりはマスコット的なかわいさとして愛でたいというような感情が強かったように思う。対して櫛枝実乃梨川嶋亜美は、等身大の女子高生として物語をかき回す役割を演じていたので、わかりやすく好きになることができた。
前者については、中盤までは得体の知れない感じがあって、それほど想いを寄せることがなかったのだけれど、終盤になるにつれて存在感が強くなっていった。
後者については、登場回から好きになった。そして最後まで好きなままだった。特に、竜児に大河のことを好きと言わせるところは、凪あすの美海を彷彿とさせるシーンで、私の理想に近かった。

葛藤し、諦める。某作品の「希望と絶望の相転移」ではないけれど、キャラクターへの想いが強い分だけ失恋が描かれた時の衝撃は大きく、わかりやすく言うなら、そこに愉悦を感じる。

 

映画とか単発の小説では勝ち負けが最初から決まっているものだろうけれど、連載モノとかラノベみたいに長期的に描かれる作品の恋愛模様というのは、作者も頭を悩ませるのだろうなと思う。
時間をかければかけるほど、それぞれのキャラクターにファンがつくし、物語の流れも当初の構想から外れていくことだってある。キャラクターが自ら動き出して、主人公にアタックしていく。結果がどうなるにせよ、一読者、一視聴者の自分は文句を言うべきではないのかもしれない。作者なんて関係ない。キャラクターたちが選んだ道なのだから。

恋愛の結末について一つ不満が出るとすれば、作者があらかじめ決めていた勝ちヒロインを無理やり勝たせてしまう展開にすることだろうか。物語終盤に至るまでの過程を無視して、神の手によるキャラクターの関係性の操作は、見ている側として面白くない。負けヒロインも美しさを得られない。勝たせたいのなら、ふさわしい展開を用意すべきだ。まぁそれが一番難しいことだとは思うが、期待に応えるとは、きっとそういうことなのだ。
そういう意味で、納得のいく「締め」がある作品は、心に残りやすい。名作と呼ばれる作品の多くは、キャラクターと物語のバランスがしっかりと考えられていて、スッと心に沁み込んで心地よい余韻を生み出してくれるものだ。

*1:アニメにありがちなテンプレの展開とか演出の知識。『とらドラ!』は次にどうなるのか、ということが比較的読みやすい作品だった。