K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

映画三連発

昨日、映画館で観てきた三作品について、長くなりすぎない程度に感想を書いた。
どれも別ベクトルの面白さを持っていて、非常に満足度の高い一日だった。

 

 

名探偵コナン 緋色の弾丸

毎年の恒例というわけではないけれど、昔からゴールデンウィークと言えばコナン、みたいな感覚が自分の中にあって、なんだかんだで過去作のほとんどに目を通している私としては、今回も観ない理由はないだろうということで、臨むことにした。
こだま監督時代まではミステリ要素がメインということもあって、近年の作品と比べると派手さには欠けていたものの、見応えが抜群だったのが大きな特徴と言える。
しかしいつからか、終盤の激しいアクションを重視した傾向へと作風が変化していき、最近ではすっかり「コナンの映画」としてのイメージが確立された感がある。
別に否定しているわけではなくて、それがコナンに求めているものになっただけなので、制作方針としては何も間違っていないのだろうし、実際に興行収入という形で結果が出ているわけだから、私も期待する方向性を流行に合わせて楽しむだけだ。

ということで、本作に関しても序盤は、総被害額がいくらになるのだろうか、この施設がめちゃくちゃに破壊されるのだろうか、などと妄想しながら作品世界へ入り込むことにした。
結果としては、まぁ期待通りのものが観られたと言ってもいいだろう。そういう出来だった。

本作で気になった点としては、いつもの開幕紹介ムービーにおいて赤井家関連のネタバレ多すぎワロタというところや、中盤以降の視点が分散したことによる場面切り替え忙しすぎワロタというところ。
前者については原作を読み進めていない私が悪いだけなので、ご愛嬌というか見なかったことにすればいいだけの話で、そのうち時間を作って最新巻まで追いつきたいと思った。
後者については展開が複雑に感じたので、個人的にはハラハラドキドキがずっと続いていて楽しかったのだけれど、子供には理解が難しいのではないかと思ったり思わなかったり。
小学生時代の私が、こんなにハイテンポのコナンを見せられて、はたして理解できていたかは怪しいところだ。

そんなわけで、人によっては不満を抱くかもしれないけれど、エンターテインメントとして考えるなら、なかなかに面白い映画だったと思う。

 


クルエラ

私は原作アニメの『101匹わんちゃん』を見たことがないのだけれど、実写の『101』は小学生くらいの時分だっただろうか、幼い頃によく見て笑い転げていた記憶がある。
金曜ロードショーで見たことのある人も多いのではないだろうか。
まぁ今となっては遠い昔の出来事なので、内容はほとんど覚えていないのだが……悪役のクルエラが随分とひどい目に遭うということだけは、はっきりと印象に残っている。
そんな彼女の若かった時代、まだ「悪役」になる以前のクルエラがどのように生まれ育ち、苦悩し葛藤を経て、「クルエラ」となったのかが、本作では描かれている。

最近のハリウッドには『ジョーカー』もそうだったけれど、名作の悪役を主人公にした過去のエピソードを新しく描こうという流れがあるようで、しばしば原理主義者からは批判を浴びることもあるのかもしれないが、個人的にはポジティブに捉えている。
悪役にも、悪役たる所以があっていい。
悪から生まれ、理由もなく悪である。それはそれで魅力的だけれど、結局のところ悪役も人である以上は、人間味を感じられる余地を作るのも悪いことではないだろう。
元となった作品の質が高ければ高いほどハードルは上がるわけだが、本作は十分にその水準に達しているように感じた。

さて、作品を観終えてから振り返ってみると、徹頭徹尾、悲劇的な人生を送っていることがわかったクルエラだが、不思議と「かわいそう」と思えないのはなぜなのだろう。
ひどい仕打ちに遭っているはずなのに、どこか面白おかしい。コメディなのだから当然と言えば当然なのだが、それなりにシリアスなストーリーとコメディ要素をバランスよく織り交ぜるのは、簡単なことではないはずだ。
好評という事実に素直に納得できる面白さが、そこにはあった。
久しぶりに『101』が見たくなってきた。

また上映時間は2時間超と、少し長めではあるのだが、それを感じさせない作りになっていたのも好印象だ。
本作だけでも大満足といったところだけれど、続編が企画中ということで、はてさて次にはどんな波乱が待っているのか、とても楽しみだ。

 


映画大好きポンポさん

鑑賞後に、自然と拍手をしたくなった作品は久しぶりだった。まぁ実際にはやらなかったけれど、心に受けた感銘はここ数年では一番のもので、本当に観て良かったと心から思える名作だった。
きっかけはTwitterで見かけて、なんだか評価が良さそうだったから他の「ついで」として観ることにした感じで、事前にホームページで調べたり特別な期待感を抱いたりということはなかった。
それが却って功を奏したのかもしれないけれど、「映画の日」を締めくくるに相応しい素晴らしい体験をすることができて、とても心地好い気分で帰路を歩くことができた。

これは「面白い」という言葉だけでは片付けたくない、非常に魅力に溢れた作品だ。
厳密に合っているかわからないが、言ってしまえば社会不適合者たるクリエイターが、他のあらゆるものを犠牲にした末に、「己」の姿を見つけるまでの葛藤を色彩豊かに描いた作品だ。
「普通」でいることに退屈したり、耐えられなかったりして、どうにか別の道を模索したい人。自己表現が上手くいかずに悩んでいる人。内面に複雑な世界を抱えていて、現実とのギャップに苦しんでいる人。
そういう人に、鋭く突き刺さるのがこの映画だと思う。

作中の個性的なキャラクターによって語られる台詞はことごとく名言じみていて、スッと心の内側に染み込んでくる。
息をつかせぬテンポのいい演出の数々に、目が離せない。それでいて情報量はシーンごとに、徹底的に考え抜かれている。
あのシーンと、このシーンが自然と繋がる。その感動はもはや、芸術と言ってもいいかもしれない。
計算し尽くされた構成に、思わず舌を巻く。
何度も感動のあまり、涙が出そうになった。こんな衝撃、私は知らない。
……ネタバレに配慮しつつ、端的に説明しようとするなら、こういう表現になってしまう。

映画は一人では作れない。それは、映画ではもちろんのことだけれど、社会というものの本質でもある。
この世の中で、人間は一人では生きていけないのだ。時には自分を力強く主張し、また時には他者を優先しながら、それぞれが各々の人生を作っていく。
容易なことではない。心折れてしまっても仕方ないくらいに、過酷な仕打ちだ。けれど、そうした状況においても、譲れない大事なものというのは誰にだってあるはずだ。
己の大切なものを活かすために、時には切り捨てなければならないものがある。とてもつらいし、逃げ出したって文句は言われない。それでも、取捨選択の先にある結果こそが、望むべく自分の姿と重なるに違いない。

この作品は、そんな風に生きていきたいなぁと思わせてくれる、あるいはあらためて気づかせてくれる傑作であると私は感じた。
そして、もっと多くの人に観てほしいと手放しで思える作品でもある。評判が広がって、より大きなヒットに恵まれることを願いたい。

 


終わってから考えてみると、観る順番がこの通りで本当に良かったと思う。
おそらく他のパターンでは、映画の内容と自分のテンションが噛み合わなかったり、純粋に楽しむことができなかったり、何かしらの不満を抱えたまま劇場を後にすることになった可能性が低くないだろう。
特に、ポンポさんは最後でなければならなかった。最後の余韻をこの作品にすることで、至福に満ちた一日を終えることができたのだ。
他の作品がポンポさんの後では、ひょっとすると観る気が起きなくなったかもしれないし、もしくは陳腐に映ってしまって面白さが半減していたかもしれない。
決して、比較してどちらが上とか下とか、そういう話をしたいのではないのだけれど、とにかく私にとっては別格の存在に思えた。
完璧な順番で各作品を楽しむことができたのは、偶然という名の幸運と言うほかにない。

今後、似たような「映画の日」を設定する際には、なるべく損をしない順番を意識して予約していきたいと思った。