K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

謎の男

在宅時間の長い私にとって、居留守というのは日常の一部だ。
こういうご時世でもあるし、それに加えて見ず知らぬの人間との接触や会話を極端に面倒くさがる性格であるがゆえに、予定外の訪問者は基本的に無視することにしている。

 

少し前に、置き配に設定しているのにインターフォンを鳴らされた件について、文句に近い内容で日記を書いてしまったけれど、要するにそういうことなのだ。
家にいるけれど、他人の前に姿を晒すつもりがない時、そういう用意ができていないタイミングでは、客観的事実はどうであれ、私の身体は動きを停止する。
この人は誰だろう。モニターに映る人間の顔を見つめながら、思考を巡らせる。
本当に用があるのなら、メールを寄越せばいい。あるいは電話でもいいけれど、その場合も私は出ないから留守電に任せる形になる。連絡先を知らないのなら、郵便受けに案内を入れておいてほしい。

とにかく、直接訪ねる以外に関わる方法を持たない相手は、きっと私自身に対する絶対的な用件を特に持ってはいないのだろうと判断することになる。
仕事なのは理解するが、こちらも無駄に時間と労力を使わされるほどお人好しではないから、事情なんて知ったこっちゃない。
これまで知らない訪問者を無視していて困ったことはないし、今後もその方針を変えるつもりはないだろう。


昨日の午後、インターフォンが鳴った。
荷物の予定はなく、急に訪ねてくる友人なんていないから、身体は反応を示さない。もう慣れたものだ。当然のように、去るのを静かに待つのみだった。
後から、記録された映像を確認したところ、手にバインダーを持った男だった。以前にNHKらしき人が来た時には身分証を翳していた覚えがあるので、それとは異なる機関の人間ということになる。
調べてみたところ、ネット回線系の勧誘というページが見つかった。必ずしも特徴が一致するとは限らないけれど、まぁ大方、情弱層を狙った何かしらの勧誘である可能性は高そうなので、無視したのは正解だったと判断した。

それから数時間が経過した夕方頃に、また同じ人物がインターホンを鳴らしてきた。
昨日は金曜だし、昼間は仕事か何かで出かけていると読んで、帰宅後を狙ったのかもしれない。あいにく私はずっと家にいて、初めから相手をする気なんてないわけで、今回も同じように無視するわけだが。
面白いことに、聞き耳を立てていると、隣の家のインターホンも鳴らしていることがわかった。
これはもう十中八九、勧誘系の人間に違いない。私という個人を目標にしているのではなく、相手にとって重要なのはノルマなのだ。

それからさらに時間が経ち、日没を迎えた頃……なんとまた奴がやってきた。
今度こそ帰宅しているだろうと思ったのかもしれないが、いい加減にしつこいぞ。出るわけがないだろう。そんなこともわからないのか。わからないんだろうな。
そしてわからないから、そういう仕事をしているのだろう。
……別に特定の職種を貶めるつもりはないけれど、そろそろ時代錯誤だと思うのだ。目に見える成果を生み出せる可能性が低い営業をして、仕事をした気になっている。令和においてもなお、絶滅していないなんて嘆かわしい。
得体の知れない恐怖を感じながら、私は録画に残った男の姿をぼんやりと見つめていた。

そして話は今日になるが、なんと土曜だというのに、その男が再び現れたのだ。
こちらの対応は、同じように無視一択。昨日もそうだが、生活音が外に聞こえるようなタイミングでなくて本当によかった。偶然にもシャワー音や電子レンジの稼働音などが聞かれていたら、しばらく張り付かれる可能性だってある。
こればかりは運任せで、いずれ居留守がバレてしまいそうだから恐ろしい。

それにしても、これまでにも謎の男の訪問は月に一度くらいの頻度であったから珍しい出来事ではないのだけれど、今回は非常にしつこい。
一日に何度も、というのがまず初めてだったし、連日というのも過去に例がなかった。
近所を全部回っているのか知らないが、ここまで同じことの繰り返しというのは、やはり非効率な「労働」としか思えず、流石にうんざりする。

そろそろ「あの家は出ない」という感じで、業者間でブラックリスト的なものに入れてもらっても構わないのだけれど、そんなものは存在しないのだろうか。