K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

glow

「Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow」神奈川公演に参加してきた。
2020年の無観客、2021年の観客半分、という流れを経て、今年の三度目となる横浜アリーナはほとんど満員という待ち望んだ舞台になった。
MCでも言及があったけれど、本当に驚くようなたくさんの人の想いが集まってこの空間が成立していると思うと、とても素敵な幸せを体験できた気がするし、大変な日々を適当に頑張って生きていこうという元気も貰えたように感じた。

 

glow

私は他のアーティストのライブに参加したことがほとんどないため、一般的な基準というものを自分の中に持っていない。ライブ=彼女のライブなのだ。
だから一概に言えないとは思うが……ライブというのはおおよそ、アンコールを除けば衣装チェンジとMCパートを一つのセッションとして、4つの段階に分けられることが多い。全歌唱曲が20曲程度で、各セッション4~5曲とアンコールという構成だ。
それぞれ、特定のテーマに沿って曲が選ばれ、舞台演出が決定される。観客は様々な世界を旅するように、色鮮やかな曲たちを楽しむことができるのだ。
毎度、過去のライブとは異なる新たなギミックが組み込まれているため、新曲はもちろんのこと、既存曲に対しても新鮮味を感じられることが多い。
今日のライブもまた、知らなかった魅力がふんだんに盛り込まれた満足度の高い内容になっていたと思う。

自らカラオケで歌っている時にも当てはまる現象なのだが、歌い始めというのは声の伸びがイマイチなことが多い。調子の良い時には問題のない高音の発声に苦労したり、息が持続しにくかったり……まぁプロと素人を比べるのは失礼だし、開演前に発声練習はしているだろうから些細なものかもしれないけれど、少なくとも最初のセッション……便宜的にAパートと呼称するが、そこでは歌唱レベルが案外、なことが多い。
不満を述べたいわけではない。むしろ、喉がまだ温まっていないのだとわかって、CDにはない人間味を感じることができて好きな瞬間だ。

次第に、アーティストの声にもハリが出てくる。ペンライトを振る私の腕も調子づいてきて、少しずつ動きが大きく、時には激しくなるのを実感する。これは主観だけれど、歌唱力という意味では、Bパートに切り換わったあたりが最もレベルが上がるように思った。
今回のライブで特に印象的だったのは、新曲では 風色Letter、既存曲では 夏の約束 だったのだが、どちらもBパートの歌唱力最大値で歌ってもらえたのが本当に嬉しかったのだが、CD音源を超えていると思うくらいに強い感銘を受けた。
前者については、最近の「予習」においてお気に入りの楽曲であり、音源で聴く分にも悪くはないがライブ映えするだろうと予測していた曲だった。後者は久しぶりの生歌唱ということでサプライズ感があったし、これが今の彼女の歌声なのだと、しみじみ思わされた。数年前のCD音源よりも、遥かに進化している。最近の曲はライブで聴いても音源で聴いても大差ないことが珍しくないけれど、少し前の曲になると今のライブでしか味わえない良さがある。

Cパートに移ると、徐々に喉を全開にして表現力の広がりを見せるようになる。本ライブにおいては、アルバムコンセプトから少し外れた、従来の盛り上がる系の曲が詰め込まれたパートになっていたけれど、衣装の雰囲気は素晴らしくかっこいい仕上がりになっていて、やはりこういう曲で興奮する瞬間もライブに参加したからには必要なのだと感じた。
つくづく、声出し禁止であることが悔やまれる。手拍子とペンライトだけでも会場の一体感を味わうことはできるのだが、あの武道館ライブで味わった快感を再び求めるなら、観客側からの共鳴も大事な要素なのだと実感した。

ライブも終盤に突入し、心なしか喉に疲労も感じられるようになるDパートだが、私も立ちっぱなしで脚と腰の痛みが限界に近づいていくのを感じて、やや集中力が欠け始めた。
曲調は一転して、静寂の中に声を響かせるようなイメージのもの、表現力を限界まで出し尽くすバラードなど、気持ちを感傷的な方向に持っていく構成となった。自身の状態と相まって、どこか浮遊感のようなものを覚えつつ、目の前に広がる光景は幻想的で、昂った心は随分と落ち着けることができたように思う。

あっという間だ。まだ、アンコールはある。それでも、あっという間なのだ。私の腰も悲鳴を上げている。
拍手によって迎えられたアンコールは、私が個人的に好きな既存曲2つと、そして残されたアルバム楽曲の最後を埋めるピースということで、非常に満足度の高いものだった。アンコールは、お祭りだ。彼女は最後の最後に、これ以上ないというくらいの歌を披露してくれている。私はそれに乗っかり、締めに向かって腕を振るだけだった。
そういえば、Starlight Museum は昨年のライブ感想日記でも特に良かったという言葉を残したけれど、何度聴いても心に響く。もともと壮大な曲調というのもあるが、生歌の迫力は本ライブ内で1, 2を争うように感じた。

そして……本来は千秋楽として想定していたからだろう、横アリ公演限定と思われるダブルアンコールが実施された。
私は、この曲に大変に弱い。武道館でも涙を流す寸前まで感動してしまったし、ここで再び聴くことができて、余韻の質も大幅に変わったように思う。もう言葉は要らない、とっておきの harmony ribbon だった。

 

さて、ライブ自体は心から良かった……と思うのだけれど、一方で私自身は大きな課題を感じてしまったところがある。
まず、入場者数が凄まじかったために、慣れない人混みの圧迫感を強いられたことだ。思えば、昨年は席の間隔があったから楽だった。今回は両隣にオタクがいて、前後にもオタクがいて、周りには人だらけ。引きこもりの私にとっては苦痛なくらい息の詰まる空間だったと言うしかなく、リアルイベントへの参加に対するハードルは、不本意ながら以前よりも上がってしまっていることを自覚せざるを得なかった。

また、体力面・肉体面における弱さを痛感した。
周囲の人間は平然とライブを楽しんでいるが、私は長時間の立ち見がしんどくて仕方なかった。歌に、曲に、集中したい。でも、身体が不調を訴えてきてそれどころではない。
上にも軽く書いたけれど、現実で起こっている問題は決して軽い話ではなかった。帰り道にも強い疲労を感じたし、人並みの体力を失った影響は今後もどこかで直面することになるだろう。
最近のウォーキングは一応、ライブに備えた体力作りも意図していたのだけれど、焼け石に水だった可能性は否めない。

そういった事情もあり、来年もしライブツアーが開催されるとしても、同じようなモチベーションで受け止められるか自信が持てない。足を運ぶのは諦めて、配信で楽しむスタイルに変えていく可能性は十分にある。
過去に参加したライブでも身体的苦痛は存在していたものの、今回はその割合が大きくなり、楽しさと苦しさの複雑な感情が入り混じっていた。ライブ自体に不満はなかった。しかし、それを見る器が必要スペックを満たしていなかったのだ。
反省したところでどうしようもないが、これは大きな反省点として次回まで覚えておくようにしよう。肉体に不都合なく生きるのは難しい。