K's Graffiti

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凱旋門賞2022回顧

凄まじいレースだった。
これが欧州、これが凱旋門賞、という向こう側への適性が究極まで問われたようなコンディションで、あれを全馬が無事に完走できたということに何よりも安堵した。
勝ち負けというレベルではない。果敢に挑戦して、問題なく帰ってくる。それだけで、ファンとしては嬉しいものだ。
レース内容や結果に対しての感想は人それぞれだろうけれど、少なくとも私はそう思った。

 

発走時刻の少し前から降り始めた大雨の影響で、もともと重の判定だった馬場は見た感じ、ほとんど不良なのではないかと思うほど荒れまくっていたように見えた。
ずっと先頭を走っていたタイトルホルダー以外は、序盤から最後の直線まで激しくキックバックを受ける形となり、まるでダートを走っているかのごとく馬やジョッキーの勝負服は泥だらけになっていた。
雨が降る前までの、ただの重い馬場なら致命的にはならなかったかもしれない足元への負荷、それが上り下りの坂を経て、直線を向く頃には相当に蓄積されていたに違いない。
中継のカメラには大量の水滴が目立ち、凝縮された馬群の中では大量の泥が跳ね、画面から得られる情報量は例年よりも非常に少ないレースとなっていた。実際に走っている馬たちの過酷さを想像すると、とても思い通りの走りができる状況ではなかったはずだ。
こうなると、ただでさえ適性差が出やすいレースだというのに、環境に慣れている現地の馬に圧倒的なアドバンテージが生まれることは火を見るより明らかだ。
日本の競馬場では決して味わえない試練を、挑戦した4頭は不運にも味わう羽目になったのだと思う。

一口に重馬場とは言っても、その細かい状態には様々な種類があると考えている。
基本的には土に含まれる含水量で機械的な判定が行われるのだと思うが、雨が降ってからどれだけ時間が経過しているのか、降った直後なのか、あるいは降っている最中なのか、そして雨が降る前の状態によっても、実際に走る時点での馬場状況は変わってくるはずだ。
そういう意味では、もともと重馬場だったところに嵐のような大雨の中でレースが始まった今回の凱旋門賞は、理論上の最悪に近いコンディションだったのではないだろうか。

まぁ仮に雨が降らず、そこそこ悪い程度の馬場で開催されていたとしても、勝ち目があったとは思わない。やはり、欧州生まれ欧州育ちの馬には敵わないと考えるのが自然だろう。
向こうの馬はそういう風に造られていて、日本の馬はそうではない。それだけの話なのだ。
もし勝てる可能性の高い馬を日本から送り出したいのだとしたら、その馬は日本で勝ち上がることが非常に難しいだろう。
オルフェーヴルのような、良馬場でも不良馬場でも相対的に大きなパフォーマンスを発揮できる馬は稀な存在だし、今の日本競馬が目指す方向性と合わせるなら、それを狙って生産するのは至難の業というか、あまり意味がないと思う。

さて、レースを見ていて思ったのは、やはり日本の馬はスタートが良い。春の天皇賞宝塚記念で見られた、タイトルホルダーが先行して、その後ろにディープボンドが付けるという形がロンシャンでも実現したのは、嬉しいものだった。
きっと、あれが阪神や中山であれば、良い勝負になったのではないだろうか。
ただ、上に書いたように激しい雨とキックバックによって、映像の半分くらいは何かしらの飛沫で埋め尽くされる有り様だった。
前にいた2頭は後半まで視認できていたけれど、中団にいたステイフーリッシュや、最後方の追走となったドウデュースは、途中から見えなくなってしまった。悪い表現になるが、まったく見せ場なしだったと言っていい。
各陣営が言うように、雨さえなければ多少は見せ場を作れる可能性はあっただろう。本当に運がなかったと思う。

そうそう、雨や馬場や適性を言い訳にするな、単純に弱かったのを認めろ、というような意見を目にしたのだが、私はそうは思わない。
だって、雨が降ったことも、クソみたいな馬場になったことも、確実に日本馬の走りにはマイナスとなっているのだから。競馬に限らず一般社会においても、単なる理由付けを「言い訳」などと言って必要以上に咎める風潮があるけれど、ただ気に入らないものを叩きたいだけの連中を、私は心から軽蔑する。
さらには、日本馬の凡走によって日本競馬の価値さえも悲観する声があったけれど、それはあまりにもコンプレックスが過ぎるだろう。
いやはや、個人の価値観だから否定するのもどうかとは思うけれど、競馬というのはあくまで相対的なものであって、絶対的な優劣を決めるものではない。欧州競馬が優れていて、そこで活躍できない馬は駄馬、なんてことは決してないだろうに、何をそんなに絶望しているのだろう。
確かに、あの条件では相対的に弱かった。だから、それがどうしたというのだ。
近年、日本の馬はサウジアラビアやドバイ、香港、オーストラリアやアメリカでも実績を残している。レベルが低いなんてことはなく、むしろ世界的な潮流の中においては上位の実力を誇っているというのに。
欧州の馬が府中に来ても、まず勝てないだろう。それは誰もが感じるはずだ。単純に、それとは逆の構図が凱旋門賞で起こっているだけなのだから。

 

ごちゃごちゃとした思考整理はここまでにして、あとは馬券の結果について軽く触れて終わりにしたい。
予想にも書いたように、結局は9点で勝負することになったわけだが、軸馬にしたアルピニスタは最終的に海外オッズで1人気、日本でも2人気という支持のされっぷりで、その実力は多くの人が認めていたのだろう。
それに応えるかのように、走りは力強く、それでいて優雅にさえ感じた。最終直線、タイトルホルダーが必死に追っている中で、スッと馬なりで抜け出してくる姿にはゾクッとするものがあった。歴代でも最強格の牝馬と言っても、ひょっとしたら過言ではないのではないだろうか。
まず名前がかっこいいし、芦毛牝馬というのも映える。Twitterでは「アルピニスタちゃん」がサジェストに出てくるなど、今回のレースを見て好きになった日本の競馬ファンは少なくない気がしている。
次走はBCかJCか、もしくは引退のようだけれど、この素晴らしい馬をもっと早く知っておきたかった。
血統表を見ると、Miswakiの4×4というクロスが目につく。名牝アーバンシーの父であり、日本ではマーベラスクラウンの父、サイレンススズカの母父など、優れた能力を持つ血だ。役に立つかは知らないが、念のため覚えておこう。

そして昨年の覇者であるトルカータータッソも、やはり強かった。重馬場の鬼。
雨によって恵まれた感はあるけれど、最近は良馬場でも結果を出していたし、持っている能力は本物だ。
馬柱を冷静に見ると、新馬の未勝利戦とバーデン経済大賞を除けば着実に結果を出している優等生だし、ドイツの新たな名種牡馬としての期待が私の中で膨らんでいる。
独特のダイナミックなフォームで爆発的な末脚を見せる姿に、これまた好きになった人が多いように感じた。

そんなこんなで馬券は、上の2頭を評価することはできていたのだが……残念ながら外れてしまった。
2400mの経験がないヴァデニは来ないと思ったのだけれど、フランスダービーを重馬場で勝っているところから適性があると判断できなかったのは、予想が甘かった。
悪い意味で話題になっているスミヨンを嫌ったのも、馬券的な選択ではミスでしかなく、なんだかんだ真面目に乗れば上手いのだから軽視する必要はなかったのだ。
昨年と同様の買い方で、アルピニスタとトルカータータッソの2頭軸にしていれば……という悔いも残るけれど、どこでも好走できそうな前者はともかく、馬場次第で評価が変動する後者を軸にはできなかった。あの大雨さえ予測できていれば、というところではあるが、流石に無理がある。

凱旋門賞2022_3連複

数ある海外レースの中でも、凱旋門賞は最も注目度が高い。
事前に出回る情報の数であったり、直前の盛り上がる空気感であったり、レース前後のトレンドを見ていると、日本人は本当に凱旋門賞が好きなのだと実感する。
日本の馬には、まったく噛み合わないレースなのに。勝てる見込みなんて、限りなくゼロに近いというのに。
私は恋愛を知らないのでよくわからないが、これはいわゆる「片想い」というやつに、そっくりなのではないだろうか。
いつか、その願いが届く日は来るのか……見たいけれど、競馬を知れば知るほど難しいという結論になっていくから、好きな馬を応援してレースを楽しみたい立場からすると、非常に複雑ではある。
ギャンブル目線なら、オッズが美味しいという側面があるから悪いことばかりではないけれど。