K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

冬に対する初期反応

寒い。あまりにも寒い。
天気を調べて表示される気温の数字だけを見れば、過去の冬に何度も経験し乗り越えてきたはずの、普通の寒さだというのに、どうして感覚というのものは一年前の慣れを喪失してしまうのだろうか。
毎年のように強いられる耐えがたい寒気に身体を適応させる作業は、本質的に寒さが苦手な私にとって、日常が非日常になりかねない過酷さを孕んでいる。

 

目を覚まして布団から出ようとする際に、布団の内側で身体を包む温もりとの温度差に驚いて、つい動作が鈍化してしまう経験は誰もが毎朝のように体験していることだろう。
太陽光を認識できるかできないか、微妙なくらいのタイミングで起きなければならない人間は、特に冬というものの厳しさを味わっているに違いない。
それは当たり前のことなのだ。地域によって違いはあるにせよ、四季のある日本においては基本的に、古来より万人が冬という季節への警戒心を育まれてきたはずだ。
寝起きに部屋の空気を寒いと感じてネガティブな気持ちになるのは、何も私に限った出来事ではない。

スムーズに起きる大変さは多くの人間が共感できる話だから特に語ることもなく、いったん置いておくとしよう。私が苦しんでいるのは、それ以外の局面においてだ。
たとえば比較的、気温が上昇する日中、そして徐々に気温が下がっていく夕方から夜にかけて、さらに就寝に向かうことの多い夜中……そのいずれにおいても、私は世間一般の平均的な人間よりも寒さを強く感じている自信がある。
もちろんエアコンは稼働させている。しかし、室内の気温を21℃前後に保っていてもなお、寒さから逃れることはできない。
椅子に座っていると、自然と足は床に接するか、床に近い位置に長い時間、置かれることになる。単純な話だ。暖房によって暖められた空気は上に偏り、相対的に冷たい空気が足元に滞留する。私の身体は下半身から少しずつ、熱を奪われていくのだ。細身の私はすぐに冷えきってしまう。
昼間なら我慢できる場合もあるけれど、太陽光が弱まるにつれて冷たい空気の層は一気に厚みを増すらしい。日付が変わるくらいの時間帯になれば、早朝に布団から頑張って飛び出す際に感じる以上の本格的な冷たさを、全身で浴びなければならなくなる。
身体の中から熱が抜けていく。手も足も、すっかり固くなってしまうのだ。

同じ設定温度にしているのに、温度計の表示は昼間の大して変わらないのに、随分と体感気温には齟齬がある。
まだ眠いか眠くないか自覚できないうちに、耐えがたい寒さに促されて、ここ数日は早々に布団の中に新たな温もりを求める羽目になっている。これでは、規則正しい生活を身体に強要する以外には、時間を有意義に使うことができない。
それだけなら季節限定ということで、渋々ながらも頑張れないことはないかもしれないけれど、私にとっての苦しみは始まったばかりだ。
というのも、寒いから布団に入ったというのに、布団の中も寒いという大変に困った事態に陥るからだ。
寒さを感じる空間に置かれていた布団が、最初から熱を持っているわけはない。それは当然なのだが、肝心の熱源である私自身の肉体が既に冷えきっているせいで、一向に快適な眠りに迎える環境が整わないという問題が浮上する。
本当に僅かな速度で温度は上がっていくけれど、身体の芯まで安心できる温もりを手に入れるまでは平気で数時間は要するものだから、これはもう深刻と言うしかないだろう。

そんなわけで、夜は思ったように眠れず、やや不眠がちな目覚めで翌日を迎えることになることの多い最近の私は、おかしなリズムで寝たり起きたりするしかなくなっている。
意図的な行動ではない。ただ、身体が欲するままに……つまり、おそらく生命状態を健全に保つための自衛に近い反応なのだろうが、どうやら夜中に十分な睡眠を期待できないということで、昼寝を頼るようになってしまったのだ。
おおよそ平均すると、夜間に4時間ほど、起きてから8時間ほど活動してから、4時間程度の休眠を取る。そして、再び目を覚まして8時間前後のアクティブ状態を継続する。
以前に、24時間の連続活動の後、12時間の睡眠を取るという1.5日周期の生活を試みたことがあったのだが、今はその逆、0.5日サイクルが身体にハマったらしい。
これはこれで不都合がないわけではないため、そのうち24時間の形に戻っていくとは思うけれど、体感としては体力や集中力が8時間しか持続しなくなったというものに近いため、ひょっとすると根本的には増量しなければ解決できない可能性がある。
寒くなってきて基礎代謝が勝手にアップし、ますます体重を増やすハードルが上がってきたような気がしているのだ。

 

ここまで無理やり生活環境や生活リズムを捻じ曲げられると、むしろ自らの意志では困難に思えた規則的な営みが自然に形作られる期待が持てるから、前向きに捉えるなら冬も決して悪いものではないかもしれない。
次第に、寒さへの過剰反応はなくなるだろう。
寒いのは寒いが、そのうち布団から出る苦痛レベルは低下していく。毎年のことだ。

確か、昨年はなぜか状態のリセットに失敗してしまったのだが、一昨年は理想に近い生活が一時的に存在していたことを覚えている。
当面は、あの頃の感覚を取り戻すことを目標に過ごしていこう。