K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

福永先生

JRAの調教師免許試験の合格者が発表された。
その中には、競馬ファンに馴染みの深い福永祐一の文字があり、ニュースが出て間もなくTwitterのトレンドを埋め尽くす勢いだった。
先々月あたりから噂はあったのだ。どうやら試験を受けたらしい……と。
もしかしたら、来年の二月で引退なのかもしれない。そういう心構えはできていたから、特別に大きく驚くことはなかったけれど、まだまだ今後の活躍も見込めるトップクラスの騎手であるだけに、自然と湧き出てくる引退を惜しむ気持ちを、私は否定することができない。

 

競馬をまともに見始めたのは2019年の年末だった。あの、リスグラシューが圧倒的なパフォーマンスで勝った有馬記念だ。
当時は、走っている馬はもちろんのこと、乗っている騎手のことなんてほとんど自分の知識にはない領域だったから、知っている馬や騎手を挙げろと言われたら、即座に出てくるのはディープインパクトキタサンブラック武豊くらいのものだった。

福永騎手の存在を認識したのは、その翌週の土曜日、コントレイルが勝ったホープフルSだったと記憶している。
わけもわからず有馬記念の馬券を買った競馬を始めたての初心者が、初めて目にする2歳馬たち。すべてが新鮮だった。純粋に強い馬の走りが見たい。
そんな中、期待通りの強い走りで無敗のGⅠ馬となったコントレイルと鞍上の福永騎手は、私にとっての競馬の1ページ目を埋める、最初の大切な思い出になったのだった。
翌年はコントレイルの活躍に歓喜し、競馬の楽しさを思い知ることになる。あの頃はまだコントレイルの出るレースしかチェックしていなかったから、知識面においては現在の足元にも及ばないけれど、三冠馬同士が激突した伝説のジャパンカップ以降は積極的に重賞レースを見ようという風に変わっていった。

2020年から2021年にかけて競馬への興味関心が急激に上昇する中で、私のモチベーションを高めてくれたのは、おそらく福永騎手だったと言っても過言ではないだろう。
何も知らない初心者の私が、少しずつ競馬に詳しくなっていく。たくさんのレースが施行され、出走する数えきれないほどの馬たちを一度に把握するのは不可能だ。そういう意味で、福永騎手はまさに取っかかりだった。
とりあえず彼の乗るレースを見る。彼の乗る馬を応援する。いつしか、その週末に福永騎手が乗るレースを見るのが習慣になっていた。
今は、基本的に重賞以外では気になっている馬の走りや新馬戦を眺めることが多いけれど、福永騎手とその馬のレースをJRA公式サイトの結果映像で楽しむという習慣は続けている。
考えてみると不思議なことだが、有名な武豊でもなく、その他のトップジョッキーでもなく、私は福永騎手の熱烈なファンになっていたらしい。
馬券購入時、あまり強くなさそうな馬に乗っている時でも、つい福永先生の好騎乗に期待して余計に買ってしまうということが、思い返すとよくあった。

2021年はちょうど、カンテレの企画で福永先生によるGⅠレースの解説動画が流行っていたこともあって、私と同じような時期に競馬にハマった人は、福永騎手に対して好意的な意識を抱いている場合が多いのではないかと思う。
騎手として、身体的には決して優れているわけではないかもしれないが、研究熱心で優れた分析力を持っているため、競馬というものをよく理解している。この馬ならこう、という走りを見せてくれることが多いから、応援しがいがあった。

インタビューの受け答えなどから地頭の良さは伝わってくるし、馬それぞれの持ち味を引き出して活躍できるようにするためには何が必要か、ということに常に考えているように見受けられるので、多くの競馬関係者が「福永調教師」に大きな期待を寄せるのも十分に理解できる。
昨年は苦楽を共にしたコントレイルの引退レースを無事に勝利で飾り、そして間もなく香港での落馬事故があった。ちょうど肩の荷が下りたタイミングで命に関わる目に遭ったことで、温めていた調教師への想いが膨れ上がったのかもしれない。
騎手としての彼の姿がもう長くは見られないという事実には、どうしようもない寂しさを覚えてしまうけれど、いずれ開業される福永厩舎の活躍を、そして願わくばコントレイル産駒での大きなタイトルの獲得を、一人のファンとして大いに期待したいし、応援し続けたいと思っている。

 

モチベーションの話に戻るけれど、来年の春以降、私は何に注目して競馬を楽しむようになるのだろう。
昨年に大好きな馬であるコントレイルが引退して、今年はその分の気持ちを福永騎手に寄せていたところが大きい。
そこで好きな騎手まで表舞台から去ってしまったら、私が競馬を見る目的が減ってしまうことは、もはや避けられないのではないか。

もちろん、新しく若い馬、強い馬は次々と出てくるわけなので、私も新しく応援する対象を見つければいいだけなのだが、どうにも馬の走りだけでなく騎手の活躍を楽しみにしている側面があったために、しばらくは福永ロスを引きずることになりそうなのだ。
いずれ、武豊ルメールといった馴染みのある他のトップジョッキーたちも辞め時を模索する時期に突入することになるだろう。
馬に対する感情と同じく、騎手に対する情熱も少しずつ新陳代謝していかなければならない。