K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

安田記念2022回顧

サリオスしか見えなかった。
いやはや、一週間前の私が見たら驚くような言葉だけれど、一昨日の予想記事を書いて以降、レースが近づくにつれてサリオスを応援したいという気持ちが無性に高まっていったのだ。
だから直線を向いて、悪くない手応えで駆ける姿が眼前を通過した時、一瞬ではあるけれど夢を見ることができた。
初めての現地観戦ということもあり、とても思い出に残る安田記念だったように感じる。

 

競馬場に足を踏み入れた刹那、目の前に広がるターフの緑色と巨大なスタンドに感激を覚えた。
写真では知っていた。けれど、実際に見るのはまったく違う。この独特な空気は、この場所でしか味わうことができないのだろう。
ああ、なんて広いんだ。
何度も通うようになれば慣れてしまって、こんな風に特別な気持ちに浸れることはなくなるのだろう。今日は、特別なのだ。

現地に到着したのは、10時台のことだった。
初見では複雑に見える建物の構造を把握したかったし、ゆっくり昼食を摂れる場所を選びたい考えもあった。パドックからレースコースへと至るルートの確認など、競馬ファンにとっては常識とも言える現場の知識を少しずつ頭に入れていく。
馬に興味がなく、食事だけが目的であっても十分に楽しめそうなくらい、魅力的な刺激に溢れた空間だった。
出不精の私が人の多い場所で歩き回るのは体力的に厳しい部分はあったけれど、とても楽しい一日を過ごすことができた。
また、秋のGⅠで来場したいとも思った。

 

レース観戦にあたっては、スマートシートエリアの後方、手すりの前で立ち見をすることになった。
ちょうど電光掲示板の正面付近で、やや高い位置だ。ゴールよりも少し手前の激しい競り合いが繰り広げられるシーンを一望できるスポットだったので、初めてにしては悪くない位置取りができたように思う。
問題があるとすれば、ずっと同じ場所に立ち続けなければならなかったことで、流石に脚が棒になった。人が増えてくると場所を取られてしまうだろうから仕方ないところはあるけれど、どのタイミングから場所の確保に努めるのが最適なのかどうかは、経験値が要求されるのだろう。
結果から言うと、一時間ほど余計に力を使ってしまった気がする。

ダービー週なら、また別の景色が広がっていたのだろうが、確かに人は多かったけれど予想の範囲内といった具合で、圧倒されるほどではなかった。
マイルはスタート地点が向こう正面の入口付近のため、あまり近くで馬を見る機会がなかったのは残念だった。上に書いた通り、メインレースはパドックを見る余裕がなかったのだ。馬券は数時間前に購入し、あとは無事に完走してくれることを祈るのみだった。

応援していた馬は①カフェファラオ、⑬ソングライン、⑰サリオスだった。
実際に購入した馬券は、最内枠ということでカフェファラオだけ評価を下げ、もともとの本命であった⑧イルーシヴパンサーの扱いに困ったものの一応は軸扱いにして、点数と的中期待値から馬連となった。

馬連フォーメーション12点
⑧⑬⑰―①④⑦⑧⑬⑰

この買い方に関しては、やや悔いている。自宅でネット購入していたら、こうはならなかっただろう。
まず、⑨シュネルマイスターを買っていない点が問題だ。やや配当が高めになる組み合わせを狙ったところもあり、あまり人気馬を入れたくない気持ちがあった。調整過程から言われていた出来の悪さを考慮すると、ここは来ないパターンもあるのではないかと、本来の実力を深く考えずに軽視してしまった。
次に、ソングラインとサリオスを狙っているのなら、この2頭を軸にして流すのが最適だったところだ。3連複なら大した点数にはならないから、大きく勝てていたはずだったのに……結果論ではあるのだが、下手に安定感を取りにいった結果、中途半端な馬券となって何も得られなかったのは反省しなければならない。

 

テレビの前で観戦している時とは異なる緊張感を抱きながら、発走直前の馬たちを眺めていた。
マイルだから、あっという間に終わってしまう。どうか、頼む。

隊列は、ほとんど事前に想定した形になった。想定外だったのは、安田記念にしてはかなりのスローペースになったところで、中団より前目での上がり勝負になってしまった。
後方から速い脚を使っても届かない。しかし逃げるには厳しい。
なんだかんだ、展開はサリオスに向いていたように思うが、究極の上がり勝負になると分が悪いのだ。
昨年のNHKマイルCの決着をつけるような形になったのは、あのレースをリアルタイムで観ていた私にとって感慨深くはあったけれど、馬券的に珍しい外し方をしたせいで複雑な気分になった。

肌で感じる歓声は、競馬観戦における新しい快感だった。
多くの人が一体となって、馬や騎手に言葉を飛ばす。まだコロナの影響で入場者の制限はあるし、本当は大声を出したら駄目なのだろうけれど、そんなことが気にならない高揚した空気感だった。これはもう、声を出すのは仕方ない。
私の前を通過する瞬間の先頭はダノンザキッドで、クビ差でサリオス、アタマ差でソングラインといった感じだった。馬券で狙っている馬が上位を争っている。この瞬間だけは声が出そうになった。あるいは、出ていたかもしれない。

最後の100mほど、スルスルと抜けてきたのは、見ないことにしていたシュネルマイスターとルメール騎手……ゴールは写真判定となったけれど、確定を待つまでもなく外れたことは自覚していた。
ソングラインが勝ってくれた嬉しさと、サリオスが好走してくれた嬉しさと、絶妙に噛み合わなかった馬券の悔しさと……競馬は本当に難しい。けれど、本当に楽しいものだ。

帰宅後、あまりにも疲労感が強いため、いつものように映像を何度もリピートして各馬の動きを追う回顧はできていないけれど、レースの内容自体は比較的シンプルだった気がする。
後方しか選択肢のない馬には、まるで勝ち目のない展開だった。ペースに合わせて戦略を変えることのできる位置を確保した馬が能力を発揮しただけで、もちろん上位の馬は強いけれど、グランアレグリアのような無類の強さを誇る怪物は、やはり前評判通り不在なのだろう。
それにしても、面白いレースではあった。ゴール前の、着順が目まぐるしく入れ替わる瞬間は、こういう質のレースでしか味わえない。

池添騎手とソングライン、ルメール騎手とシュネルマイスター、レーン騎手とサリオス、それぞれが勝つための見事な競馬をしていたと思う。
馬券が外れたのは残念だったけれど、初めての現地観戦で、非常に満足感のあるレースを楽しめたことに感謝したい。