K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

マッチングアプリなんて

大学時代の知人がTinderを通じて知り合った相手と結婚間近の仲まで進展しているらしく、今の時代はそういうこともあるのだなぁと感心したのが先日のこと。
いや、先日というか四か月近く前の話ではあるのだが……時間感覚のバグは置いておいて、結婚年齢が上がっている昨今において、出会いに様々な形があるのはいいことだと思っている。


出会いとか、異性との付き合いとか、そういう話とはまるで無縁であった私であるから、もちろんマッチングアプリに興味なんて持ったことなんてなかった。だって、知り合いから話を聞いていると面倒くさいのは火を見るより明らかで、性格的に真剣になれないだろうし、きっと続かない。
というわけで敬遠していたのだけれど、なんの気まぐれか食わず嫌いはよくないと思い直して、とりあえずインストールしてみたのが昨年の秋のことだった。

まず、プロフィール設定で躓く。
誰に見られるかもわからないのに、実際の顔写真なんて貼れるわけがない。とりあえず、真っ暗な画像を設定しておくことにする。この時点でまともな人間でないとアピールしているようなものだが、お試し気分なのでそんなことは気にしない。
異性に魅力的に映るような趣味を選択……なんてことも当然できず、ごく自然と引きこもりの陰キャみたいな内容を作り上げていく。
一応、出身大学については嘘をつかず、適当に「社会実験」みたいなことを最後に書いておけば、怪しい人物の完成だ。
こんな私に興味を抱く人間がいるとしたら、同じような捻くれ者である可能性が高いのではないか。その場合は……まぁ互いに暇潰し程度にしか考えていないだろうから、偶然にマッチングしたとしても関係が深まることなんてないだろうという予想を立てる。

結局、本当に手が空いた時間に数分だけ、好みの顔であったり面白そうなプロフィールであったりした人間を「LIKE」に加えていく作業を繰り返すだけだった。特に面白味もない。毎回その数分で飽きてしまうから、とてもハマれる気がしなかった。
それに……これは私の感覚がマイノリティなだけかもしれないが、次から次へと出てくる人間を手軽に右に左に選別するなんて、趣味が悪くないだろうか。マッチングアプリをやる人には、それぞれに事情があるだろうから一概には言えないけれど、多くの人は個々にとって大事な「自分の形」を見せているはずなのだ。それを一瞬の印象だけで否定するなんて。まぁ就活の面接も似たようなものかもしれないが。
私のように、はなから正体を覆い隠してロールプレイを拒んでいるような人は滅多にいないし、表示された数々の見知らぬ人々は、いずれも私の知らない世界を構築していた。
特定の誰を魅力的に思ったり、ましてや会いたいとか付き合いたいとか思う相手なんていなかったけれど(だから私は致命的にマッチングアプリに不向きなのだろう)、数分の暇潰しになる程度には、ちゃっと向こう側に息の通った人間がいることを感じられたのだ。
人は、誰か他人の温もりを求める。関わりを求める。既存の関係性の外側に。孤独でない何者かになりたいと。

何か月かやってみて、相互にマッチ判定を受けたのは二回だけだった。どちらも、だからと言って連絡を取るわけではなくそのまま放置だったし、たまに「誰かがLIKEしました」みたいな通知が来ていたけれどことごとく無視していたので、ついにマッチングアプリの活用方法はわからないまま終わってしまった。
終わった、というのは、先日スマホのストレージが逼迫してきたので使っていないアプリを整理したのだが、その際にTinderもアンインストールしてしまったのだ。もう一度やろうと思うことは、おそらくないだろう。
実のところ、内心では期待していないでもなかったのだ。似たように暇潰しで遊んでいて、私よりは多少の積極性を備えた人間が、たまたま発見した私に関心を持って話しかけてくるという事件を。残念ながら、妄想の世界ほど都合のいい人間はいない。
現実の人間関係と同じで、異性と関わりやすいはずのマッチングアプリという環境であってさえも、主体的に異性に魅力を伝える努力をしなければ、決して素敵な出会いなんて訪れないのかもしれない。


ちなみに、私の性格や現在の恒常的な思考の方向性から判断するならば、たとえ異性から期待外の反応が飛んできたとしても、まんまとそれに食いつくということはなかったと考える。
そもそも見知らぬ人間とコミュニケーションを取るのが極端に苦手なのだから、唐突にメッセージが送られてくれば何か騙されているのではないかと疑ってしまうだろう。仮に大丈夫そうだとしても警戒心が消えることはないし、他人と関わるのが面倒くさいという大前提は揺らがないので、社会勉強が済んだら……というか好奇心がある程度まで満たされたら、もういいと投げ出すに違いない。
だいたい、私が気に入りそうな人間は、そもそもマッチングアプリなんてやらないだろうから。最初から詰んでいるのだ。