K's Graffiti

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記録更新について思うこと

昨年から今年にかけてエンタメ界隈は鬼滅の話題一色で、興行収入においては千と千尋の神隠しを超える記録を叩き出すなど、もはや知らない人はいないレベルにまで取り上げられたのは記憶に新しい。
そして今春においても、テレビアニメというジャンルの中で新たな記録が生まれた。
言うまでもなく、ウマ娘2期の円盤売上のことである。

 

個人的に、鬼滅の刃に関してはテレビシリーズと劇場版を普通に見ただけで、原作は読んでおらず、したがって作品の内容についてとやかく言えるだけの材料を持っていないのだけれど、あまりにも過熱していたブームに対しては些か冷めた目線があったことは否定できない。
要するに、「確かに面白いけれど、これってそんなに売れるほどかな?」という見方があったのだ。
興行収入の記録を塗り替えた時あるいは塗り替えそうな段階で、名作の記録が抜かれるなんて嫌だ、というような意見は、いろいろな場所で目にすることができた。
大勢は好意的であるにせよ、「質」が伴っていないのではないかと、人気に対して懐疑的な感想を持つ人が一定数いる事実には、私も部分的には同調してしまうところがあった。

まぁ鬼滅の話は深堀りが難しいのでこれくらいにして、主題に入りたい。
先月下旬に発売されたウマ娘2期の売上枚数が出て、話題となったのが先週のこと。なんと歴代のアニメ円盤初動売上新記録という結果で、この配信主流の令和の時代に円盤の売上で盛り上がるなんて、と驚いたものだった。
確かにアプリの人気は他の追随を許さない圧倒的なもので、個人的にも待ちに待った発売ではあったのだけれど、それにしても……びっくりな数字だった。

記録云々はいったん置いておいて、売れた理由を考えればいくつも要因は思い浮かべることができる。
まず、多くの人が指摘している特典のシリアルで、これはアプリ内で使えるアイテムが手に入るというもの。特典商法というのは別に珍しくもなんともないのだけれど、このシリアルは普通に課金で手に入れるよりもずっと効率的ということで、情報が出た時点から「お得だよ」と購入を促す人がたくさんいたのを覚えている。
アクティブプレイヤーの数が数百万人という規模のゲームなので、それを考えると売れまくるのも不思議な話ではないのかもしれない。
とはいえ、円盤だって安い買い物ではない上に、特典内容も情報が出た当時と比べると、サポートカードが弱いとか、普通に遊んでいたら特典なしでも★2以下のキャラクターを★3にすることはできるとか、いくつかの理由で相対的に魅力は低下していると思われる。
そういうわけで、必ずしも特典による効果がすべてではないのではないかと個人的には感じている。

もう一つの理由として、純粋にアニメの出来が素晴らしかったことが挙げられる。
私は、どちらかと言えば前者よりもこちらの理由で購入を決定した人間であって、その件については2期10話の感想とともに日記に残しているから、よく覚えている。
端的に言えば、猛烈に感動したのだ。これに報いるには、円盤を買うしかない。そう思ったから躊躇なく全巻予約したわけで、特典については予約した後に詳しい内容を知ったくらいだった。
一つの事実として、Amazonの人気ランキングにおいて10話放送終了後にウマ娘の円盤が急上昇したというデータがある。私と同じようなムーブをした人間がそれなりにいることを示唆しており、それはアニメ自体が正当に評価されたことの反映であると考えたい。

まぁその後は、アプリの話題沸騰につき円盤のランキングも上位独占という状況が続き、人気が人気を呼ぶ正のスパイラルという感じで、わざわざ語る必要もないだろう。
2週目にはさらに驚くほどの枚数が加算され、ついに歴代のトップに立つこととなった。
しかし振り返ってみると、円盤の記録を更新しても驚きはないくらいの状況は十分に揃っていたようにも思う。


さて、こうなってくると、なかなかに香ばしい人間が次から次へと出てくる。
お馴染みの「売れているものに文句を言う連中」だ。
この手の輩の常套句なのだが、抽象化すると「昔は良かった。今はクソ」というものに概ね集約される。
コンテンツを楽しむユーザーの質に対して悲観的であるのは、個人的には構わないし、むしろ必要な視点であるとも思うけれど……人気があるから人が群がり余計に人気になっているだけで、コンテンツそのものは大したことがない、というような論調は正直どうかと思う。
昔の名作は、確かに優れた点が多かったのかもしれない。けれど、だからといって新しく出てきた作品が素晴らしくないなんてことは、まったくないだろうに。
自らの感性が追いつけない新しい流れを受け入れられないだけなのか、あるいは逆張りで話題性のあるものを嫌悪しているだけなのか、よくわからないけれど、どうにも「お気持ち」を読んでいるとエアプなのではないかと思わずにはいられない。
本当にアニメを全部見たのだろうか。アプリを遊んだのだろうか。ひょっとして、世間における人気の度合いと、心に抱いた印象との間の乖離に苦しんで、その結果として生まれたのが否定的な意見なのではないか。ついつい、そう思ってしまうのだ。
あるいは逆に、がっつりコンテンツに触れた上で心から楽しめなかったのだとしたら、非常にかわいそうな感性の持ち主ということで、憐れみを覚えざるを得ない。

結局のところ何が言いたいかと言えば、面白いものがちゃんと売れて嬉しい、という一言に限る。
売上の数字に関しては特典や、一時的なブームの影響という要因を無視することはできないものの、一方で爆発的に売れるだけのクオリティが確かにあったというのは疑いようのない話で、だから記録更新というニュースが出てくることも、おかしな話ではないのだ。
それに対して不満を述べるのは自由だけれど、そもそもコンテンツを本当に心から楽しんでいる人は、売れたことに対して否定しようなんて思わないだろう。
食わず嫌いしている人は、これを機に触れてみるか、そうでないなら他の世界に帰ってもらいたいものだ。


ここまで書いて、なんだか冒頭に書いていることと矛盾しているような気がしてきたけれど、鬼滅の刃に関して私は熱中しているファンでもなんでもなく、ただのアニメオタクという視聴者に過ぎないので、ウマ娘とはユーザーとしての関わり方が少しばかり異なるのだ。
わざわざ盛り上がっている人に向けて冷やかすような言葉を投げるつもりはないし、ちゃんと見た上で自分には過度に刺さらなかったという話をしているだけなので、矛盾はしていない。

なんとなくだが、一番の違いは「一般層」に浸透しているかどうかな気がしている。
ウマ娘の盛り上がりは、なんというか居心地が好いのだ。
願わくば、昼のワイドショーなんかではあまり取り上げられないでほしい。