K's Graffiti

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宝塚記念2023回顧

月初の段階でイクイノックスの本命は決まっていたし、きっと高い確率で勝つだろうという自信があった。宝塚記念というのは過去に人気馬が負けている印象の強いレースではあるけれど、類まれなる傑出した存在にとって、数々の不安要素は意味を為さない。
もちろん結果論ではあるのだが、予想の中心は勝つかどうかよりも、どういう展開の中でどう勝つかだったし、その見立ては合っていたらしい。
歴史に残る最強格の馬をリアルタイムで見ることができていているのは、大変に幸運なことだ。

 

普段からレースを考える上で鍵となるのは、馬場とペース、それから枠順といった要素なのだが、今回は相手探しを含めて、特に難しかったと思う。
舞台が府中なら直感的に強いと思える馬をボックスで買っておけば当たることも珍しくないが、適性が結果に強く結びつく傾向のある阪神2200という特殊コースにおいては、余計なイメージを捨てることも重要だ。
適性というのは、ゲームに出てくるステータスのように考えるとわかりやすい。適性に合致した条件では相対的にパフォーマンスが上がるし、逆に適性外となれば実力を発揮することが困難になる。適性の異なる馬同士を一方的な条件で比較して強さを論じることに大して意味なんてないし、すべてのレースを万全の状態で走れるわけでもないから、馬の能力を厳密に見定めることは実のところ不可能と言ってもいいかもしれない。
ただ、そうした複雑な要素を気にする必要がないほどに、絶対的な強さを持った名馬がいる。まさに横綱だった。

当然イクイノックスが勝つと思ってはいたのだが、実際レースを見ていると波乱の発生を想像してしまうもので、今日はヒヤヒヤした人が多いのではないだろうか。
大観衆の注目が集まる中で、スタートは躓きかけ、先行しようとしたところ外から激しくマークされて後方に下げざるを得なくなり、やや内前傾向のある馬場でほとんど最後方からの競馬を余儀なくされる……普通に考えたら絶望的だ。
最初から追込に徹しているならともかく、序盤に脚を使わされた消耗は少なからずあっただろうし、それでいて馬群が凝縮しているから、大きな距離ロスを受け入れなければスムーズな道を確保することは不可能という状況……しかし、それでもなおルメール騎手は冷静だった。
逃げた前走とは真逆だし、中団から余裕で抜け出した有馬とも異なる、阪神内回りでの大外ぶん回しだ。はたして、この展開で勝てる馬が過去に何頭いただろうか。
着差こそクビ差で、あの「イクイノックス」のレースとしては派手さに欠けて、大したことがないように見えないこともない。前にいた馬たちが競り合って潰れてしまい差し馬に展開が向いたところもあり、勝ち時計も特別に速いわけではない。
しかし、これはそういう表面的な次元の話ではないだろう。この馬は常に自分のリズムで走っている。速すぎず、遅すぎず、後から見返すと上手く展開をモノにしているような競馬をする。けれど、たまたま展開に恵まれているのではない。展開的に有利となる位置取りとペースを、ごく自然に体現しているのだ。個人的には、これが「天才」と呼ばれる所以だと感じている。競馬センスがバケモノなのだ。
ますます、秋の最強馬対決が楽しみになった。

2着のスルーセブンシーズは、まさかと思った。いやいや、血統的に可能性としては考えていたし、穴を狙うなら美味しい馬ではあったけれど、本当に突っ込んでくるなんて思わなかった。展開を読めなかったこともあり、馬券的には完敗だ。
近走のパフォーマンスが素晴らしくて馬が覚醒しているというだけでなく、勝つために池添騎手がイクイノックスを徹底的にマークした結果の好走とも言えるので、能力的な意味で再現性があるのかはわからない。
適性と展開がハマって、さらに人馬がベストを尽くしたからこその2着だろう。しかし、もし最終直線で追い出しが遅れなければ、クビ差が逆転していたかもしれない。

3着のジャスティンパレスも今回は後ろから行った分、末脚を使えた形だろう。先行策のイメージがあったけれど、長距離で結果を残してきただけあって、今回のような中距離の流れるレースでは自然に後方のポジションとなったわけだ。
ディープ産駒だからと問答無用で消すことはせず、ちゃんと評価できていたことは嬉しい。ディープが残した最後の順当に強い馬という感じがして、血統的には晩生傾向で成長余地が残っていそうだから、今後の活躍も楽しみではある。速い上がりが使えるタイプではないため、下半期は有馬記念以外に適鞍がなさそうなのは残念だが。

4着のジェラルディーナは、勝ちにいった結果という感じがする。結果的にレースは後方で脚を温存した馬に有利な展開となったため、イクイノックスやジャスティンパレスと同じような位置でもう少しだけ仕掛けを待っていたほうが良かった気はしたが、ただ例年の宝塚記念ならこれでも悪くない捲り方だったのだろう。
今日の阪神は馬場読みが難しかった。平場では前が止まらない、内前しか勝たないような展開があったにもかかわらず、メインレースでは先行馬の大半が潰れるという不思議な現象だ。数字以上にタフなレースで他の馬よりも長く脚を使ってしまった。だから上位には来たが、馬券にはならなかったということなのだろう。

5着のディープボンドは、またしても勝てなかったけれど……こればかりは仕方ない。よく頑張った。
本来、宝塚記念に向いているタイプではあるはずなのだが、今年は先行馬にとって厳しい展開になってしまった。先行勢の中で上位に粘れているという時点で地力は本物なのだが、如何せん運がない。
クラシックで走っている頃から見ていて、かなり好きな馬なので大きなタイトルを取ってほしい気持ちはあるけれど、年齢的にチャンスはもう少ないだろう。
最終的にはイクイノックスと並んで馬券の軸にしていたから、残念は気持ちは大きい。けれど後悔はない。

前残りの傾向という意識が各ジョッキーの頭の中にあり、先行争いが激しくなった。みんな前のポジションを確保したい。
異常馬場だった昨年ほどではないにしろ、結果としてかなり消耗の激しいペースとなって、序盤に楽をできなかった馬たちは最後の直線で脱落していく。
中盤のラップが緩んだ分だけ馬群はひと塊となって最終コーナーに向かうけれど、これは息を入れるというよりは、バテないためにペースを落とざるを得なかったようにも見えた。
多頭数のGⅠだからこそ予想以上にタイトなレースとなって、有利と思われるポジションが裏目に出る。そういうことが一定の割合で起こりうることを長くやっている競馬ファンは知っているわけだが、予想に織り込むのは簡単ではない。
イクイノックスが「世界最強馬」でなければ大波乱になっているところだった。つくづく競馬は難しい。

 

それにしても、特に組み立てもせず思いつくままに書き殴っているだけなので、随分と読みづらい文章になってしまったと思う。誰に読ませるわけでもないが、反省しなければならない。
次に競馬関係の日記を書くのは秋、おそらくスプリンターズステークスになるため、しばらく期間が空くことになるが、次回は少しばかり構成を変更して、書きやすく読みやすい内容を意識してみたい。