K's Graffiti

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天皇賞(秋)2022回顧

心の底から思う。見応え抜群の面白いレースだった。
秋の天皇賞というのは毎年それなりのメンツが集う大舞台という印象なのだけれど、今年も期待通りに強い馬の強い走りを見ることができた。
たとえ馬券が外れたとしても、なんだか気持ちのいい感覚が残っている……純粋にレースを楽しみたい競馬ファンとしては、グランプリに匹敵するくらい観戦することに大きな価値があると感じる。

 

先に馬券の話をしよう。
結果から言えば外れたのだが、本命イクイノックスという点に関しては的中していたので満足している。
まぁ1番人気を本命にして当てたところで上手くもなんともないのだけれど、このところ本命にした馬が勝てないレースが続いていたから、応援が実ったという意味で嬉しいのだ。

先日の予想記事では買い目を絞った3連複で考えていたものの、いざ当日になってオッズを眺めていると、当たったとしてもトントンくらいにしかならず、はたして買う意味があるのだろうかと思ってしまった。
これなら本命の単勝に予算全額とか、あるいは馬単流しや3連単で高配当を狙ったほうが、馬券的には面白い。
ただ、そもそも私が賭ける額は強靭な精神力によって1,000円程度に抑えているため、単勝を当てたところで大した払戻しを期待できない。
また、本命だけでなく対抗にしたシャフリヤールも好きな馬で、イクイノックスが負けるパターンで納得できるのがシャフリヤールだけだった。
以上の流れで考えると、3連単の1列目と2列目をこの2頭にするのが最もスッキリした買い方だという結論に至り、以下の馬券で勝負することとなった。

秋天2022_3連単

さて、レース展開は誰もが予想したパンサラッサの逃げから、2番手をバビットとジャックドール、そしてノースブリッジが取り、他の有力馬は中団付近に控える形となった。
ここで意外だった、というか残念だったのは、ジャックドールがパンサラッサを追いかけずに、離れた逃げの2番手集団の中で控えるようなポジションを選んだことであり、その結果として大逃げのパンサラッサを除いたら、全体的に見るとペースはスロー寄りになってしまった。
抜けて先頭を走る馬に注目が行きがちだが、後方の馬たちの実質的なレースはスローからの直線ヨーイドン、究極的な上がり勝負になったことが着順に大きく作用したのではないかと思う。
パンサラッサが逃げて少し離れたところをジャックドールが追走、それを離されないように後続が追いかける形になれば、ここまで上がりの速いレースにはならず、他の人気馬にも馬券に絡むチャンスがあったのではないかと個人的には思う。
実際にはほとんど直線だけの競馬で、速い上がり勝負への適性が高く斤量の軽い2頭が突っ込んできたのだから、競馬の展開を完璧に予想するのは困難を極めるわけだが。

勝ったイクイノックスは、春シーズンは大外枠の不利を受けながらも連対を外さず能力の高さを見せ続けてきたわけで、ここにきてようやく本来のパフォーマンスを大観衆の前で見せることに成功したのだと思う。
残り400mあたりでは本当に届くのかとハラハラしたけれど、最後はしっかり1馬身先着するのだから恐れ入る。
上がり3Fは脅威の32.7秒ということで、同じタイムは2020年にフィエールマンが記録してはいるけれど、全体時計は今年のほうが上回っているし、まさに鬼脚と言っていいだろう。
実際、これだけの上がりが使えなければパンサラッサには及ばなかったわけだし、過去の走りっぷりから多くの人が想いを寄せていたポテンシャルの高さに、間違いはなかったということになる。
ラップタイムは違うかもしれないが、位置関係や直線の伸びから、昨年の東スポ杯と似たような運びだったように見えた。
残り240m付近では得意の左手前に替えて再加速を図るなど、相変わらずハイレベルなレースセンスを持っているし、これでまだ馬体的には成長途上というのだから、今後がますます楽しみだ。
最後の伸びを活かすなら府中が向いているけれど、左手前を武器にしやすい右回りも問題ないだろうし、JCでも有馬でも馬の状態が整うようであれば是非とも観てみたい。

2着に粘ったパンサラッサだが、これはもう素直に拍手するしかないだろう。ありがとう、と感謝の気持ちを述べたくもある。
この馬に期待されている走りを存分に見せつけてくれて、それで2着に残っているのだから、買わなかった人も納得できる結果だ。
フジテレビの実況では「令和のツインターボ」なんて言われていたが、パンサラッサはパンサラッサなのだ。この時代に生きる、強い逃げ馬パンサラッサという名前は、このレースを観戦した誰もが記憶に刻んだに違いない。
ある程度はハイペースで逃げるだろうとは思っていたが、実際に1,000mの通過タイムが57.4と表示されると、なんだか不思議な感覚になる。しかも、今回は宝塚記念と違って後続を大きく引き離す形だから、もしや逃げきってしまうのではないかと期待した人も少なくないはずだ。
そして同時に、沈黙の日曜日のことが頭に浮かんできた。あのレースの、悲劇にならなかった続きが観られたような感じで……ゴール後にはふと、目頭が熱くなるような感じがあった。

3着のダノンベルーガは、個人的には強く評価はしていなかったのだが、後続にとってはスローからの上がり勝負ということで展開が向いた形だと思う。
また、川田騎手の選択も上手かったように見えた。コーナーの出口までは荒れた内を避けつつ、直線に入ってからは最短で内側に進路を確保し、前が壁にならないように追い出している。
ただ、やや位置が後方すぎたのかパンサラッサには届かなかったし、末脚の鋭さはイクイノックスに及ばず、皐月賞ダービーと続いて格付けは完全に済んでしまった感がある。
時代が違えばGⅠを取れそうな逸材なだけに今後どうするのか気になるところだけれど、JCは距離が長いだろうから来年の安田記念までは合うGⅠがなさそうに思える。
マイルCSはレース間隔が短いし、そもそもサリオスがいるため同厩舎で出してくるとは思えず……年末や来年の春に海外を狙うプランも悪くないとは思うが、はたして。

4着のジャックドールと5着のシャフリヤールは、レース展開によってはもっと着順を上げられる未来があったと考えている。
特にジャックドールは自ら好走できる可能性を殺してしまったというか、持ち味を潰す競馬になってしまったことが、応援していた人は悔しくて仕方ないだろう。
素人の考えではあるが、きっと札幌記念のように走ればよかったのだ。パンサラッサに楽逃げをさせず、直線に入るあたりで交わせるような競馬……すなわち1,000m通過を58秒台半ばくらいで走れれば、馬券に絡むことはできた可能性が高い。
この馬に直線の末脚勝負をさせた時点で、ほとんど後方の強力な差し馬に勝負を譲っているようなものなのだから、本当に騎手の体内時計というのは重要なのだろう。
そして、もしジャックドールがハイペース寄りのミドルペースで追走する形を作れていたら、より強みが活きたのはシャフリヤールだと思う。何しろ、この馬は複数のレコードを出しているくらい時計勝負が得意舞台なのだから。
秋天レコード更新とは言わないまでも、1分56秒台の決着になれば上位に食い込んでいたに違いない。過去の上がりタイムを見ても、直線のトップスピード勝負よりは、そこそこ流れた上での持続力勝負のほうが向いている。
そういう意味では、やはりJCのほうがベストなのかもしれない。

その他、気になった点としては既に制裁情報が出ているけれど、ノースブリッジの挙動だろう。穴人気していたマリアエレーナに賭けていたという人も結構いるはずで、レースの大衆的な印象とは対照的に、後味の悪さを余韻として引きずっている人がTwitterを見ていると散見された。
もちろん意図的に邪魔したというわけではなく、馬の難しい気性が引き起こした不運なのだろう。しかし、あまりにも危険ではあった。
事故にならずに済んだのは不幸中の幸いだったけれど、GⅠで落馬事故なんて悲劇は勘弁してほしいところだから、騎乗停止もやむを得ない。

 

そんなこんなで楽しかったGⅠは小休止となり、次回は再来週のエリザベス女王杯だ。
デアリングタクトの復活となるか、アカイイトが連覇するのか、あるいは新勢力の台頭か……昨年を思い出すとまた大荒れしそうで、馬券の難しさを感じざるを得ないけれど、逆に考えれば当てたら一気に回収率を回復できるだろうから、期待はしている。
今年も残り少なくなってきたし、それぞれのレースを大事に楽しんでいきたい。