K's Graffiti

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有馬記念2022回顧

終わってから感じる、この独特の高揚感と寂しさ……有馬記念が特別なレースなのだということを、画面越しながら肌に刻み込まれているようで、これから生涯ずっと年末に観戦することになるであろう未来の有馬記念が楽しみになった。
様々な陣営の想いが交錯する中で、強い馬が圧倒的な走りを見せて大衆を魅了する……久々に後味が心地好い週末の夕方を過ごすことができたように感じる。

 

人気馬が順当な結果を残すことの多い有馬記念だが、今年の焦点はイクイノックスとタイトルホルダーの取捨だったと言ってもいいだろう。
両者は性質の異なる走りを得意としていて、どちらかが勝つならもう片方は期待通りのパフォーマンスを出せないかもしれない、なんてことをぼんやりと考えていた。
結果から言えば今日のレースはスローペースだったので、前者のハイペース耐性を見極めることはできず、そして後者は状態が万全でなかったように見えた。ただでさえ強いイクイノックスは展開利を最大限に活かして後続を引き離し、一方でタイトルホルダーは「普通の逃げ」で大きな見せ場を作れずに終わってしまった。凱旋門賞の疲れがあったとは思わないが、どうやら走法が春から変わっているらしく、少なからず欧州馬場を走ったことの影響があったのかもしれない。

終わってから振り返ってみると、有馬記念という大舞台に私が心から夢を託したかったのは、本命のタイトルホルダーではなく、対抗のイクイノックスでもなく、ボルドグフーシュだったかもしれない。
イクイノックスとタイトルホルダーを中心に据えた馬券を買おうと考えてから、何度もボルドグフーシュを軸にしようか悩んだのだ。
結局、直前で買い目を変更することはなかったけれど、最後の3,4コーナーで悠々と上がっていくイクイノックス、それに追従して大捲りを決めるボルドグフーシュの姿を視界に捉えたときには、久しぶりに大きな興奮を覚えることができた。
心の中で「行け!」「頑張れ!」と叫べる……これこそGⅠの醍醐味だろう。

勝ったイクイノックスは、好スタートから中団の良いポジションを確保して競馬できていた。道中ずっとルメールが抑え気味ではあったけれど、ようやく身体の成長がポテンシャルに追いついてきたということで、有り余るエネルギーが表に出ていたのだろう。
実況でも言われていたように、3コーナーでスッと位置を上げていき、4コーナーから直線にかけては持ったまま馬なりで先頭に並びかける姿が圧巻だったし、最後は後続を突き放して余裕の完勝だった。
ほとんど4歳に近いくらいの時期に、勢いのある3歳馬が斤量55kgというのはチートに近い。とはいえ、ハンデがなかったとしても揺らぐことはないくらい抜けた能力による勝利だった。
同じ中山の皐月賞では、同じく前半から行きたがった結果、前に馬を置けずに消耗して最後は脚が上がってしまった。しかし今回は折り合い不安こそ見せたものの、同じ轍は踏まなかった。焦ることなく馬を信じることのできるルメール騎手だからこそ、この馬の持ち味が活きることとなったのだ。
まだまだ成長途上で、完成はもう少し先ということだから、来年の活躍が楽しみで仕方ない。春はドバイからの宝塚記念、秋は古馬三冠あたりを目指すことになる気がするけれど、未経験の関西輸送さえクリアできれば、もはや怖いものなし文句なしの現役最強馬の座を手にすることになるだろう。
気が早いようだけれど、父キタサンブラックに匹敵する、あるいは超えるほどの活躍を期待してもいいのではないかと思う。それくらいの逸材だ。

2着のボルドグフーシュは、福永先生が事前の展開予想で語っていたようにスタートが今後の課題となるだろう。
本レースでは出遅れというほど遅くはなかったように見えたが、出足がつかず後ろからになってしまった。応援していたから、向こう正面までほとんど最後方を走っているのを見た時はどうなることかと心配したけれど、3コーナーの終わりから4コーナーにかけて福永先生が促すと、物凄い勢いで大外を捲くっていき、一気に馬群の先頭付近までワープした。
イメージとしてはコントレイルの皐月賞に近い形だろうか、本馬も今年の菊花賞でもやったように、最終コーナーで後方から前方へと高速移動するのは限られた強い馬にしかできない挙動なので、これは見ていてわくわくした。
勝ち馬が化け物だったから届かなかったけれど、普通の年なら勝っていて不思議ではないパフォーマンスだったし、ボルドグフーシュにやってほしいと思っていた競馬を見事に実現してくれたので、非常に満足度は高い。
レース後のコメントでも言われていたように、来年の中長距離路線を担っていく存在になると思うから、ライバルは強いけれど春天あたりでの戴冠を願っている。

3着のジェラルディーナは、これまた本格化したロベルト系ということで思っていた以上に強かった。
今年のローテーションやエリ女の疲れ、トラックバイアスを活かした勝利などから、このメンバーの中で好走できるのか不安視してしまったけれど、しっかり強かった。
昨年から応援していたものの、今年の後半に入るまではなかなか結果が出ず、軽視し始めた途端に好走を連発するという馬券的な相性の悪い馬だった。今回のレースで事実上、古馬牝馬のトップに立ったと思うので、来年は人気になってしまうだろうけれど狙わないわけにはいかなくなった。
非根幹距離が得意そうで、クロノジェネシスとイメージが被るところから、最大の買い時は宝塚記念のような気がする。

4着のイズジョーノキセキには驚いたけれど、内枠の利を岩田騎手が活かした見事な競馬だったように思う。
本質的には長いと思うのだけれど、ペースが落ち着いた上にもラチ沿いを使えるということで、出せる実力は出しきった形になるだろう。

5着のエフフォーリアは思っていたよりも走ってくれたように見えるが、やはり状態は昨年には及ばない
今回は遅いペースのおかげで追走に脚を使う必要はなく、先行して溜めることができた。
来年は、もし体調が万全かつ似たような質になるレースに出てくるようなら、今度こそ「復活」を期待してもいいかもしれない。
返し馬であれだけ拍手が飛び交う馬なのだ。誰もがエフフォーリアの強い走りを再び見たいと思っている。

降雪の影響で、関西馬の輸送に遅延があったというニュースが話題になっていた。
馬によっては回避できたみたいだし、影響の度合いは出発時間にも左右されるから、厳密な比較はできない。
一つ言えるのは、馬という繊細な生き物が、ただでさえストレスを受ける輸送という過程の長時間化に対応できるはずもなく、状態面に関しては不公平感が強かったということだろう。
有力馬の中でもディープボンドやヴェラアズール、ジャスティンパレスあたりは期待通りとはいなかったので、こちらは見ていて残念だった。
そういう意味では、遅延の影響を受けながらも抜群の手応えで結果を出したボルドグフーシュは、本当に強いのかもしれない。

 

強い競馬で勝ってきた馬が、必ずしも同じように強い走りができるわけではない。競馬とはそういうものだし、今後も何度だって期待を裏切られることはあるだろう。
ただ、馬の状態を見極める際にフォトパドックが有用であることは今回で学ぶことができた。エフフォーリアが良く映らなかったのはもちろんのこと、タイトルホルダーも出来落ちに見えたのだ。馬券の対象になったイクイノックス、ボルドグフーシュ、ジェラルディーナはいずれも良く見えた。

さて、正直なところもっとレース映像を見ながら無限に感想を書いていきたい気持ちはあるのだが、有馬記念を楽しみにしすぎていた反動で眠気が強く、このまま書き続けても支離滅裂になりそうだから、このあたりで切り上げようと思う。
数日後にはホープフルSが開催されることだし、年末には東京大賞典がある。頭を切り替えていく必要があるだろう。