K's Graffiti

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ジャパンカップ2023回顧

これだけの素晴らしいレースを見て、私からはいったい、どんな感想が出てくるだろうと思ったが、それほど大層なものでもなかった。むしろ非常にシンプルな「ああ、そうだよね」という、知っていた事実を素直に受け入れるような言葉しか浮かばない。
本当に理想的と言うべきか、これ以上ない結果で終わったように思う。とにかく、強い馬が強い走りを見せてくれたこと、全馬が無事に完走したこと、それだけで大きな価値がある。

 

1着のイクイノックスは、◯評価だった。
実際には対抗ではなく本命にするべき馬だったのだろうと思うけれど、どうしても体質面への不安とオッズ妙味という観点から、嫌う選択肢も現実的に存在すると考えたのだ。
いや、しかし、プラス体重で出てくるなんて話が違うではないか。東スポ杯から皐月賞へ直行しなければならないくらい、本来は調整が極めて難しい馬だったはずなのに、まさかレコードで激走した秋天から中3週という初めての間隔で、さらに余裕を持たせて出走してくるなんて……もちろん馬の成長があるとはいえ、ここまで万全に仕上げられたのは陣営の努力の賜物だろう。レース後のルメール騎手や木村調教師の涙には、思わず貰い泣きしそうになった。心から、あっぱれと言うしかない。
イクイノックスの状態が良いかどうかは、スタートからの勢いでわかる。詰まったローテとなったダービーは後方からになったし、やはり慣れない環境や暑さで整いづらかった宝塚記念も後方から、一方で3歳の秋天有馬、4歳の秋天と今回のJCは、非常にスムーズな形でスピードに乗って最適な位置を確保することができた。
おそらく普通の馬よりも追走力が突き抜けているイクイノックスは、極端なスローペースを除き、3番手付近の先行ポジションさえ取れれば確実に勝つことができる。なぜなら、平均ペースでは道中に消耗することなく上がり最速を繰り出せるし、ハイペースになったとしても耐えられるからだ。
今日のレースは先頭のパンサラッサが異様なハイペースで飛ばした超縦長の展開となったけれど、前半が速いのはパンサラッサだけであり、後続は一般的なラップ、むしろスローに近い速度で追走していたように思う。タイトルホルダーで1000m60秒程度、つまりイクイノックスは60秒台後半だ。楽すぎる。
スタートで素晴らしい位置を確保することができたので下手にプレッシャーをかけられることもなく、あとは自分のタイミングで好きにスパートをかけるだけ。ただでさえ地力が圧倒的なのに、レースそのものがこの馬の挙動にすべて噛み合うとなれば、他の馬は太刀打ちできるはずもない。誰もが納得する完勝だった。
正直、もう倒すべき相手はいないし、仮に今後も勝ちを積み上げていったとして、種牡馬価値に影響するとは思えない。走るだけでリスクを抱えることになる競走馬は、走る意味がなくなった時点で引退したほうがいい……そんな風に考える人も少なくないだろう。久々に秋古馬三冠を目指すというのも悪くはないし、有馬に出てきたら普通に勝つだろう。ただ、それはもう当たり前すぎて面白くないのだ。強いのはわかったから、早く血を繋いでほしい。
逆に来年も現役を続けるのであれば、あのエルコンドルパサーがやったように、思いきって海外に長期遠征するのも手ではないかと思う。血統的には欧州要素が非常に強い馬なので、本質的な適性は悪くないはずだ。現地の馬場や調教に適応さえできれば、自ずと結果は伴うだろう。
いずれにせよ、これだけの馬の走りをリアルタイムで見られることに感謝しなければならない。

2着のリバティアイランドは、◎評価だった。
イクイノックスに状態面で隙が生まれているなら十分にチャンスがあるだろうと踏んでいたのだけれど、そうはならなかった。世界最強馬の壁はあまりにも高い。
ただ、イクイノックス抜きで考えれば、この馬の怪物に近い。相当に強い走りをしていたように思う。
最内枠が多少は影響したかもしれないが、スタートは五分に出たものの、序盤の加速はイクイノックスに及ばず、さらに外から多くの馬が殺到する中で、どうにかイクイノックスの後ろを確保するという形になった。三冠レースはいずれも包まれない競馬を選択していただけあって、このようにプレッシャーを受けながら走るのはほとんど初めてに近い経験だったのではないかと思う。
リバティが走っていた位置は1000m61秒くらいの通過だったはずたから、この馬にとっては少し遅い。前にも横にも馬がいて窮屈なのにペースも理想的ではないとなると、掛かってしまうのも仕方ないだろう。パトロールを見れば道中で何度も頭を上げているのがわかるし、見た目以上に消耗していたのではないだろうか。ひとつ前で楽に走っているイクイノックスとは、なんとも対照的だ。
それでも、横に並んだスターズオンアースに負けることなく、最後までしっかり伸びて連対を確保しているのは立派だろう。むしろ、イクイノックスは例外的な存在なので、実質的に勝ちと言ってもいい。
三冠を獲ったにもかかわらず、歳上の最強馬との直接対決で負けてしまい年度代表馬に選ばれないであろう構図は、なんだかコントレイルと重なるところがあって応援したくなる。まだまだ成長の余地は残されているだろうし、来年も順調に素晴らしい成績を積み上げていってほしい。

3着のスターズオンアースは、☆評価だった。
不利と言われる外枠からの発走で、かつ出遅れが多いこの馬にとっては楽なレースにはならないだろうと考えていたけれど、その不安要素への対応についてはビュイック騎手が上手すぎた。
驚くほどの好スタートから非常にスムーズな形で好位を確保して、危なげなく伸びてくる。上手く走ったという意味ではイクイノックスに等しいレベルで、端から見ていて文句のつけようがなかった。
上位2頭が強かったこと、ずっと外を走っていた分の微妙な距離ロス、あとは斤量差が影響しての3着だとは思うけれど、この馬も普通ならもっとGⅠタイトルが増えても不思議ではない実力を持っている。依然として複勝率100%は継続しているわけだし、来年の古馬牝馬路線はリバティとの一騎打ちになるかもしれない。
ただ距離短縮よりは伸びたほうが良さそうなので、いっそのこと牝馬春天の制覇を目指してみても面白いのではないだろうか。

その他、人気上位の馬が順当に入線していったあたり、ほとんど紛れることなく能力通りに決まったレースだったのではないかと思う。
それぞれの馬が狙ったポジションを競馬をする。だからこそ、レース結果に対する感想が納得感に満ちるのだ。
特に波乱なく予想した通りに終わるという点に関しては、見方によっては退屈かもしれない。しかし、今回は出ている上位馬が本当に強いからこそ、ただ普通に走るだけでも価値が生まれたのだと私は思う。いつも言っている「強い馬の強い走りが見たい」という願いが、複数同時に叶ったような感覚だ。
後世に語られるであろう本レースを目撃できたこと、それ自体に感謝したい。

 

来週からは師走に突入し、いよいよ年末が近づいてくる気配を感じる。
有馬記念まではダートに2歳GⅠと箸休めの気持ちで、しばらく競馬熱は落ち着くことだろう。毎年のことだが、寒さも相まって寂しい感じがする。
今のところ、チャンピオンズカップの予想はクラウンプライド一強という印象なので、あとは伏兵探しに注力しようと思う。