K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

手段を増やすために

私は右利きなので、書くのも食べるのも投げるのも、細かい力加減が必要な行為はすべて右手任せになっていて、左手の役割と言えばもっぱら力仕事だった。
重たいものを持ったり……他にはあまり思いつかないが、握力は右よりも高い。
ただ、左手でも右手と同様の動作ができたらどれだけ便利だろうと、ふと思った。

 

右手は、そもそも慢性的な腱鞘炎めいた症状に苦しんでいるため、あまり酷使できないのだ。絵を描くためには右手が必須だし、PCを操作するにも右手は使う。できるだけ大切にしてやりたい。そうなると、他の動作については負担を分散できるのが好ましい。
また、右脳を刺激したいという考えもある。左脳はこれまでさんざん使ってきたのだから、これからは右脳も意識的に働かせてみて、より脳の広い範囲を使って物事に取り組めないかという試みだ。
たとえば絵がうまい人は左利きが多いという話を聞いたことがあるし、脳に対してよい影響が出ることを期待している。

それで、実際に何を始めたかと言うと、いきなり文字を書いたり絵を描いたりするのは無理な話で、しかも軽く上達したところで右手には一生敵わないし実用性に乏しいわけだから、できれば日常において活用できるところからのほうがいいかな……ということで、とりあえず食事を左手で縛ることにした。
右利きの人間が左手で箸を扱う。思っていたよりもできたけれど、思ったようには動かない。やはり、簡単ではなかった。
しかし「箸は両利き」という人は、それほど珍しくもないように思う。もともと左利きだったけれど不便だから右で使えるように矯正したとか、右手を怪我して仕方なく左手を使っていたら慣れたとか、ありがちな話である気がする。
だから、手を使った数ある動作の中でも、食事ならそれほど難易度が高いものではないのではないかと判断した。

始めてから、もう二週間近くになるだろうか。当初に比べれば随分よくなったような、あまり変わっていないような……成長具合は、主観的にはわかりづらいものだ。
やったことは、まず箸を右手で持ってみて、次に同じように左手で持つ。力を入れる場所、動かす角度などを真似する。まぁうまくいかない。
どうしても変なところに力が加わってしまい、長く使用していると手が痛くなってくるのだ。右手ではもっと気楽に持って軽く掴んでいるというのに、左手の場合は無駄に強張ってしまう。
まだ、その正しい形が手に馴染んでいないのだろう。筋肉と同様に、慣れない動きをすると痛みが出るのは当然だ。
なんとなく、徐々にコツがわかってきたような感じがしたので、あとは回数を重ねるだけだと考えている。

幼少期、最初に右手で習得しようとしていた時には、どれだけ時間がかかり、いったいどんな工夫をしたことだろう。苦労したかどうかすら、ほとんど記憶にない。
座ったり歩いたりするのと似たような話で、物心つく前には自然にできるようになっていたものだから、この年齢になって意識的に覚えようというのは、なかなかに趣深い実験かもしれない。
あと半年も続けたら、きっと不自由なく使えるようになっていることを願う。