K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

聖夜の悲劇

一昨日の夜から昨日の朝までに発生した悲しい事件のせいで、私の生活リズムは正常な形を維持することができなくなっていた。
食事も睡眠も時間が滅茶苦茶で、とてもクリスマスらしい気分になれる状態ではない。
気分で大きく何かが変わることもないだろうけれど、このままではマズいと思って、早めに寝ることにしたのだ。

 

このところ度々、私の日記に登場する隣人が昨晩はとてもとても元気だった。それはもう、私を一睡もさせないくらいに。
嫌な予感はあった。普段から隣人への配慮なく好き放題に騒ぐような連中だ。クリスマスイヴなんていう絶好の機会に、例の男がやって来ないわけがない。

案の定と言っていいものか、日付が変わる直前に壁をコツコツと叩くような物音と、絶え間ない足音がやけに耳障りだった。
いったい何をしているのだろうと聞き耳を立てていると、どうやら掃除機をかけているらしかった。ああなるほど、これから彼氏が来るからきれいにしておこうという……いやいや、こんな時間に勘弁してくれ。
その予想は、しばらく経つと現実のものとなる。クリスマスの日になって一時間ほど経過した頃に、突然大きな物音と男女の会話が響いてくるようになった。私は布団の中で、始まってしまったか……と半ば絶望の気持ちに浸ることになる。
そのまま静かにしていてくれたら別に構わないし、小声で話してくれるのならそれほど睡眠の妨げにはならないだろう。
まぁ知っていたけれど、そんな淡い期待はすぐに崩壊することになった。

騒音といってもいくつか種類があって、単純に壁が薄いがゆえに聞こえてくる会話の反響音であったり、移動する際の足音や扉を開閉する物音であったりする。
いずれにおいても、隣人として許容できるレベルというのが個人差はあるにせよ存在して、昨夜はあらゆる騒音がその許容レベルを遥かに超えていた。
何をしているのか知らないが、跳び跳ねているのではないかと疑いたくなるくらいに、やたらとドン、ドン、と断続的に響いてくる。
男女ともに酔っているのかしらないがバカ笑いを繰り返して、特に女のほうはガキみたいな喋り方をするものだから聞いていて本当に腹が立つ。お前それでも成人しているのか、と。聞いているというより聞こえてくるのだから回避不能で、あまりにもひどい有り様だった。
男は男でケラケラ笑ったり女にちょっかいを繰り返し出しているようで、一向に騒音が止む気配がない。
小声どころか大声と言ってもいいくらいで、きっと外にも騒音は漏れていたはずだ。私以外にも被害者がいるに違いない。というか、隣のさらに向こう側の住人だって相当に不快な思いをしているはずなのだけれど、どうなのだろう。
深夜の、最も活動している人間が少ないと思われる時間帯に、急に歌い始めたり、泣き出したり、情緒不安定かよと女に対して小声で突っ込みを入れながら、男が発する謎の物音には壁を殴りたくなる衝動に駆られて、しかしあと一歩のところで思いとどまる次第だった。
助けて……と無意識に呟いた自分の一言に、ふと思いつく。そうだ、助けてもらえばいいではないか。

交感神経が活発になり、とっくに眠れる状態ではなくなった私は、軽く殺意を覚えながら管理会社の連絡先を確かめる。
横から絶えず響いてくる騒音を冷静に聞き流しつつ、しっかりと苦情を文章にまとめて送信した。深夜ということもあって、管理会社の人間がそれを見るのは昼間になるだろうけれど、内容や送信時間から緊急性はわかってもらえるだろう。
とりあえず今は対応を待って、ひたすら耐えるしかない。なぜクリスマスの夜にこんな不愉快な目に遭っているのか、まるで意味がわからないけれど、あり得ないほど非常識な人間も世の中にはいるのだという、人生の勉強になったと前向きに捉えることにしよう。

完全に外が明るくなってきた頃、ぱたりと物音が途絶えた。
キチガイも睡眠欲には抗えないようで、一晩中、好きなだけ騒いだあとは好きなように寝る。本当に気楽なものだ。爆発しろ、と思う。妬みではなく純粋な恨みから。

ようやく平穏が戻ってきた早朝、私は心身ともにボロボロになりながら布団に入ることにした。隣のクソカップルのせいで、貴重な一日の時間を無駄にすることになる。いや、本当に赦しがたい。
イライラしながらも、待ち望んだ静寂に包まれて私も強烈な睡魔に襲われた。こんなはずではなかったのに。こんなはずでは……。

次に目が覚めた時には、とっくに正午を過ぎていた。夕方のほうが近いくらい。そしてまた、男女の声が聞こえてくる。
この地獄はいつまで続くのだろうと思った。まだ昼間だから、多少はいい。こちらもPCを前にしてイヤホンを使うから、それほど気になることはないだろう。
それでは、今夜はどうなる。また昨日の繰り返しになるのか。
不安で仕方ない。
これを機に、私の生活リズムを完全に夜型に変えてしまう手もあるかもしれない。やつらが静かになる早朝から昼までを睡眠時間として設定して、私の活動時間は午後から早朝まで。
それが定着すれば悪いものではないかもしれないけれど、やはり自分の意思ではなく他人の迷惑行為で行動を制限されるのは非常に不本意なことだ。
いつ眠るか、どんな日に夜更かしをするか。それを選ぶ権利は自分になければならない。

さて、この日記を書く前に、管理会社から返事があった。隣の住人に対する注意換気の連絡を行ったのだという。
しばらく様子を見て、改善されなければまた連絡を寄越せという、予想通りの回答だった。
効果があったのかまだ判断できないけれど、そういえば夕方あたりから物音がほとんど聞こえてこない。連絡を受けて昨夜のことを思い返し、どれだけ自らが迷惑な存在に成り下がっていたのかを自覚したのだろうか。
誰も聞いていないと思ったか。全部聞こえてるよバーカ。

 

ただ平和に眠り、ちゃんと早起きをして、生活リズムを取り戻したかっただけなのに……ますます私の生活は壊されて無駄に疲れることになった最悪のクリスマスだった。
一昨日からの一連の災難に、流石に心に負ったダメージが大きいので、今日の日記は勢いで書いたまま。どうしようもない文章になってしまっているかもしれない。
まぁそれはそれとして、日記としては否定すべきものではないのでいいのだけれど、ちょっとこの週末は気持ちをリセットしたいなと思った。
引きこもってばかりなのも不健康だし、気分転換に明日は外出でもしようかな。