K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

糸を垂らす

もちろん釣りの話ではなく比喩なのだが、経験上どうしても気乗りしない場合よりもモチベーションが高い時のほうが良好なパフォーマンスを発揮できるので、何か取り組むべき課題がある際には、心身を調和させ極限まで集中できるようにすべく、可能な限り環境整備から入ったほうがいいと思っている。
そうして必要なものが整った状況で期待するのは、自分の想像を超えるようなエネルギーの爆発だ。

 

私は中途半端に器用であるため、そんな活力の強力なバフ効果に頼らずとも、作業を始めてしまえば一定の成果を出すことができる。
過去に会社で任されていた仕事なんて、ほとんどをそのスタイルで完遂していたし、やる気がなかったとしても高い評価を得ることができていた。
そうして私の中に残ったのは虚しい感情と、いつまでも解消されず蓄積される一方である疲労感だけだった。

長く継続するには、やはり体力とモチベーションの合致が不可欠なのだ。
身体が貧弱であるがゆえに、おそらく一週間のうちに全力を出せる時間は一般人よりも少ない。疲れやすいし、回復まで時間を要する。加えて生活リズムが壊れがちだから、決まった時間に他者と協力しながら効率的に物事を進めるにはまったく適していない、社会不適合者の典型のような人間となってしまった。
一方で、狙っている獲物は大きい。心に秘めた想いが働きかけて生み出すもののポテンシャルは計り知れない。ただ一つ、問題があるとすれば、それがいつ顕現するか……我ながら予測が難しくて、もう随分と長い間、自らのコントロールに苦心している。

わかりやすい契機が訪れれば、生活は大きく変わる。一度でも動き出せば、一週間前には想像できなかった景色が目の前に広がっているかもしれない。
現実的には、そんな望ましい報せが外部から私の人生に入ってくることは滅多にないから、じっと時が来るを待つばかり。

 

きっかけは、実はなんでもないのだ。
ふと、ちょっとした拍子に火がつき、ぐんぐんと燃え上がる。以前にも何度かあった。なんでこんなに頑張れるのだろうと、半ば不思議に思いながらも身体が動いてくれる。思い通りに……いや、それ以上に集中力が極限まで高まって、時間を忘れる。

ゲームで無敵アイテムを取った時のような高揚感に促されて、なんでもできる気がすると、つい思い込んでしまう。モチベーションの鬼と化した私にとって、敵となるのは「ゾーン」を崩しうる生理反応の数々だ。
長く作業を続けていればエネルギーを消耗して、次第に腹が減る。疲労が溜まって眠くなるし、座り続けていると身体の節々が痛み始める。
作業が一段落したタイミングが最も恐ろしくて、そこから先は中断するか続けるかの選択肢を突きつけられる。中断したら、再開を試みるために新たな起爆剤が欲しくなる。我慢して続けても、様々な原因で作業ペースの低下は避けられないから、気が散って結局は断念することが多い。

下手をすると、せっかく掛かった獲物を取り逃してしまう。貴重な機会を活かせなければ、次につながらない。
思うに、ただ糸を垂らしているだけでは駄目なのだ。
途中で切れてしまわないように堅牢な糸を用意して、転覆してしまわないように安定感のある土台に座り、最後まで全うできるよう持久力に気を遣う。
いずれも半分以上は準備が完了している。ところどころに不安はあるけれど、一応は稼働可能な見込みが立つくらいにはなっているはずだ。

あとは、しっかりと獲物が食らいつくのを待つだけ。
さてはて、いったいどれくらいの時間がかかるだろうか。