K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

買い物だって命がけ

死が間近に迫るのを実感する時、人は生命維持を求めて勝手に身体を動かすらしい。
普段、無気力になりがちで生活に必要な作業や活動を最低限しか果たせないことの多い私においても、今日ばかりは怠けていられなかった。
この機会を逃したら、死ぬかもしれない。ふと頭の片隅に、そんな不安が生まれたのだ。「やればできる」を素直に体現してしまった。

 

そんな大層な話ではない。
ただ、生きるために必要な食べ物や飲み物を、スーパーで買ってきただけのことだ。一般人からすれば、わざわざ書くまでもない、他愛ない日常のシーンに過ぎないだろう。

私は、外に出るのが苦手だ。外の世界自体を嫌悪しているというよりは、疲れやすい体質が軽率な外出を拒んでいると言ったほうが、実情に近いかもしれない。
用事がなければ、まず玄関のドアを開けることなんてない。外を歩くのは月に数回なので、足腰の筋肉は部屋の中を移動するために必要な最低限のレベルまで低下して、もう体重は容易には下がらないところまでやってきた。
身体が軽くなればなるほど、皮肉にも外出時の負荷は増加する。ますます、外に出るのが億劫になる。悪い循環だ。

もちろん、生きるためには栄養摂取は絶対に必要だし、特に夏場は水分補給も欠かせない。身体は飢餓状態に近くても耐えられるように、極端に偏った生活スタイルに適合しつつあるものの、一応は健全な生命体である以上、完全に飲食物を断つということは不可能だ。
それらは日数とともに、少しずつ消費していくことになる。大量に買い溜めておいても、いつかはゼロになる。ストックを切らしてしまったら、買い足さなければならない。
昨晩の時点で、普通の人が平然と暮らせる水準を遥かに下回っていた。飲み物はコップ一杯分程度しか残っておらず、食べ物は栄養バランスを考慮すると不健康極まりないラインナップ……まぁ最悪、水道水だけで生きていくことは可能ではあるけれど、現実的な意味でギリギリのところだった。

今日、買ってこなければ死ぬ。
少なくとも、ただでさえ低い生活水準は地面を掘るレベルまで低下して、流石の私でもメンタルに悪影響が出かねない。
夏バテのせいなのか、熱帯夜に起因する不眠症のせいなのか、体調はお世辞にも平気とは言いがたいほど劣悪なコンディションだった。それでも、普段の感覚ではありえないほど、身体は動いてくれた。
危機感、と一言で表現するのは簡単だが、そういうことなのだろう。無意識に、本能的な何かが作用して私を外界へと駆り立てた。

 

競走馬に換算すると、斤量140kgといったイメージだろうか。
なるべく外に出たくない。その強い想いが導きだす答えは、持てる限界まで買い込むことに他ならない。
ペットボトルをたくさん入れたリュックを背負い、比較的軽量の食料を詰め込んだビニール袋を持って10分ほど歩く。
体重に対する運んでいる重量の割合は30%を超え、これでは走ることはおろか、テンポよくバランスを保ったまま歩くことすら困難だ。
それほど長い距離を移動するわけではないから、全体的に言えば筋肉痛になるほどの負荷でもないのだけれど、往路と比べて1.5倍近くの時間を要するあたり、背負う重量が速度に及ぼす影響というものを身をもって体感している気分になる。

かくして、かろうじて死を免れた私は、今後しばらく……おそらく一週間以上は引きこもり続けても大丈夫な備えを確保することができた。
この連日の夏日に、不要な外出は諸々の面から控えるべきだし、ただでさえ室内にいても暑さで余計に体力を削られているのだから、それに加えて太陽光を浴びるリスクを犯すこともないだろう。

夏休みが終わる直前まで宿題を完遂させられないタイプだった私が一人暮らしを続けていたら、生命活動に必要とされる食べ物や飲み物さえ優先度を後回しにして危機的状況を招くようになった。
やはり、人間に向いていないのではないか。