K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

遊ばず見るだけ話題のゲーム

流行りの配信を覗いている人間ならば誰もが知っているであろうゲーム『Only Up!』だが、私が初めてその存在を認識したのは先月の前半頃だった。名のある配信者がプレイし始めてから、そろそろ一か月くらいになるだろうか。正直、そこまで面白いものかと思う。
確かに、一見すると面白そうではあるのだ。しかし、この手の一定の慣れが必要な上に、随所に初見殺しが置かれていて、ひとつのミスで積み上げてきたものを一気に失うタイプの面倒なゲームは、ミニゲーム程度ならともかく、わざわざ買って長時間を費やすほどの価値があるのだろうかと思ってしまう。個人的には、とうとう自らプレイする気にならなかった。

 

多くの人間が遊んでいて話題になっているからこそ、特別に面白そうな空気感が出来上がっているのであって、誰にも見られることなく話題を共有することもなく、たった一人きりでクリアしろと言われたら、おそらく苦行としか感じないはずだ。
以前に「壺おじ」とか「壺男」などと呼ばれるゲームを購入して遊んだことがあるのだけれど、途中まで進めたところで面白さを見失ってしまい、中断する羽目になった。以降、再開していない。
あれとは操作感が異なるものの、本作も同じような雰囲気をプレイヤーに味わわせるコンセプトで作られているため、こうして配信者界隈で大々的に取り上げられている現状は、ほとんど必然と言っていいだろう。
難所を突破すれば盛り上がるし、あるいは落下すれば一層の盛り上がりを見せる。その一連の流れ自体が魅力的なコンテンツになるからこそ、配信者たちがこぞってプレイするのだ。
そういうわけで、ゲーム性はかなり配信向きと言えるし、逆に考えたら配信しない人間が手を出す理由もない。
まぁこれは個人的な考えであって、誰かに見せたり他人と盛り上がったりすることなく、ただ与えられた試練を突破することに強烈な達成感や幸福感を覚えることのできる人ならば、関係のない話だろう。
極論、ゲームなんて大半は自己満足のためだし、私だって他のジャンルのゲームなら一人でプレイすることに時間とエネルギーを割くこともある。というより、基本的にソロゲーしかできない。
結局、この作品に対する個人的な評価が、自分で遊ぶゲームではなくて、配信者が試行錯誤しているところを見て楽しむゲームだというところに落ち着いてしまっただけとも言える。

初見ならではの面白味というのもあって、他人の配信を見ることで内容を知ってしまっているから、自分でプレイする魅力を感じにくいという問題もある。
ジャンプする感覚は繰り返しのプレイによって身につけていくものだから知りようがないけれど、ショートカットの場所や飛ぶ方法であったり、ステージ上の特殊ギミックであったり、本来は自分で体験して失敗するはずのポイントを、他人の配信を視聴することで熟知してしまっている。
短縮できる方法があってそれを知っているというのに、時間のかかる茨の道を進むのは、あまりにもバカバカしく思えてしまう。もっとも、普通のアクションゲームなどでは、たとえ攻略法を知っていたとしてもそのように考えることは滅多にない。なんだか不思議なものだ。

そうして最後に残るのは、上へ上へと進んでいく楽しみではなく、どれだけ速く突破できるか……すなわちRTAの世界しかない。
私を含め、配信だけでゲームを楽しんだ気になっている有象無象の視聴者たちは、自力でクリアする喜びを知ることなく、世界レコードに挑戦する緊張感を仮体験するようになる。なんとも令和的な、コスパ重視の時間の使い方と言えるかもしれない。
先月の半ばには30分程度だったRTAの記録は、今では17分を切るところまで詰められている。
いつだったか、ゲームにアップデートが入り、ステージの各所が変更された。単なるバグの排除のみならず、これまで使えていたポイントが丸ごと消えてしまったり、より突破を容易にするためのショートカットが追加されたりと、以前とは別物の様相を呈している。
ゲーム性は変わらないけれど、どうしてもリリース初期の印象が強いだけに残念というか……これから初めてプレイする人は、あれらの要素を知らないまま最後まで行ってしまうのだと思うと、なんだか寂しい。

 

プレイ配信やRTA動画を見ていたせいで、私のYouTubeのおすすめ欄の一角は『Only Up!』に占領されてしまっている。
いい加減に飽きてきたので、今後は目にする機会が減っていくとは思うのだけれど、同時に考えるのは、このブームはいつまで続くのだろうという疑問だ。
まるで、クリアしなければ配信者を名乗る資格はないと言わんばかりの勢いで遊ばれているが、壺の時と比べてコンテンツの消費速度が速すぎるような気がする。
この夏のうちに遊び尽くされて、秋には誰も話題にしていない、なんてことも大いにあるのではないか。
RTA走者たちもいつまで頑張るのか不明だが、その頃には10分を切っていそうだ。
あらためてプレイしようとする一般人は減っていく一方だろうし、まさに今が旬、Steamセールをやっている今が最後の買い場なのかもしれない。