K's Graffiti

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有馬記念2023回顧

「終わり良ければすべて良し」なんて言うけれど、個人的な競馬との向き合い方やモチベーションを総合すると、まさに今年の有馬記念は満点と表現するしかないレースだった。予想が的中したかどうかに関係なく、おそらく競走そのものに価値を見出している人にとっては非常に満足度の高い展開と結末で……私はこのレースを忘れないだろうと思う。

 

1着のドウデュースは、▲評価だった。
筋肉量が豊富な馬体を見て、この馬をマイラーだとか距離が不安だとか、どちらかといえばネガティブに評価する人が少なくなかった印象がある。私は昨年、ダービーを勝った時点でその手の不安要素は自分の中から払拭することができていたのだけれど、その一方で京都記念以外では期待したパフォーマンスが見られなかったこともあり、他馬と比較した場合の能力的な立ち位置がどのあたりにあるのか、どうにも掴みかねているところはあった。
天皇賞は久々の競馬で、しかも直前の乗り替わり、さらには異常なハイペースに巻き込まれる形での凡走だったので仕方ないと思っていた。JCでは上位の馬が強かったとはいえ、しっかり伸びて悪くない走りはできていた。もともと叩き良化型ということを踏まえると、3戦目となる今回は一層の期待が持てる……そんなイメージで予想はしていたのだが、やはり勝つためには展開の助けが必要だろうと考えていた。
武豊がGⅠが勝つと盛り上がる。ジョッキーカメラの迫力満点の映像に、思わず感動してしまった。騎乗が素晴らしいのはもちろんだが、しっかり応えたドウデュースの能力も本当に高いのだと、あらためて見せつけられた気がする。
来年は再びフランスを目標にするようだが、ここを勝ったことで文句を言わせない形は作れているし、引退まで陣営が望むようにやればいいのではないだろうかと個人的には思う。重馬場なら適性外だが、今年のように良馬場で開催されればチャンスはある。天候次第、運次第ではあるけれど、期待したい。

2着のスターズオンアースは、△評価だった。
いくら馬が強くても、ルメール騎手が上手くても、物理的に与えられている大きな不利を覆すのは難しい……そう思って評価を下げたところはあるのだけれど、まさかスタート直後にその不利を帳消しにするとは想定していなかった。
秋華賞大阪杯では出遅れたことで勝ちを逃したところがあったので、確かに前走は先行できていたけれど、あれほど上手くゲートを出るとは誰が予想しただろう。横に他の馬がいないくらい抜群のスタートを決めれば、ほとんど距離ロスなく前目のポジジョンを確保することができる。言うのは簡単だが実際にはレアケースで、ルメール騎手の咄嗟の判断も光っていた。菊花賞のドゥレッツァやチャンピオンズカップのレモンポップでも見たけれど、大外の不利を回避する唯一の方法を大舞台で実践できるというのは、尋常なことではない。
序盤に脚を使った分、途中からペースを緩めて脚を溜めるような形で2番手追走となった。なんとなく向こう正面では勝ってしまうのではないかと予感したくらいで、実際あわや1着というところまで伸びるのだから本当に強い。
このブエナビスタのような馬柱は応援したくなるし、依然として複勝率100%は継続中なので、馬券的な軸としても来年の活躍には期待したい。

3着のタイトルホルダーは、☆評価だった。
予想ではアイアンバローズ次第と書いたけれど、アイアンバローズのスタートが悪くて競りかける形にならず、横にいたスターズオンアースも無理をせず控えたので、これはタイトルホルダーのレースになるのではないかと思った。
ラップの刻み方そのものは淀みなく、わりとタイトルホルダー自身にとっても負荷の大きい走りになっていた気がするけれど、比較的きれいな高速馬場だったことが幸いして、ギリギリ粘れたのだろう。圧勝した菊花賞春天とは違い、宝塚記念に近いイメージに見えた。
全盛期であれば勝っていたかもしれない。そう思わせるくらい、あの4コーナーには夢が詰まっていた。陣営曰く、凱旋門賞以降は走法が変わってしまって、以前のようなパフォーマンスは期待しづらくなっていたのだという。そんな中で、考えうる最大限の走りを最後に見られたことは、競馬ファンとして喜ばしく感じる。
貴重なドゥラメンテの後継種牡馬として、今後も血統表で目にすることを期待したい。

4着のジャスティンパレスは、◎評価だった。
最も評価していたとはいえ、半ば消去法的なところがあったので馬券内に食い込めなかったこと自体は仕方ないと割り切れるものの……誰が見ても敗因は明確というか、出足が付かず後方からの競馬となって、仕掛けどころのコーナーでもスムーズに進出できなかった点だろう。序盤の位置には大きな差がなかったにもかかわらず勝ったドウデュースとは、なんだか対照的な結果になってしまった。
馬の適性や騎手の判断など細かい要素が絡み合った結果であって、何が悪いというわけではない。たまたま噛み合わなかっただけで、最後はしっかり伸びているし、来年も十分にGⅠで勝てる馬だと思う。

5着のシャフリヤールは、消し評価だった。
着順に関して最も驚きだったのが、シャフリヤールの走りかもしれない。弱いとは思っていないし、好きな馬だから心の中では応援していたのだが、まさか有馬記念という血統的には難しいであろう舞台で好走できるとは思わなかった。
本質的には距離が伸びたほうがパフォーマンスが上がるタイプだとして、小回りのBCターフで3着だから、立ち回り次第ではチャンスありという見方も実は可能だったのかもしれない。時計が出やすく内前有利のトラックバイアスを、しっかり内枠から活かした騎乗は見事だった。
それにしても、まだ情報が出ていないけれど、来年も現役続行なのだろうか。もう一度どこかで勝ってほしいという願いはありつつ、何かアクシデントが起こる前に引退してほしいという思いもあって複雑な気持ちだ。

3歳馬については、またしても世代のレベル云々と否定的に見る意見が出ているようだけれど、もう少し評価は保留したほうがいいのではないかと私は思う。全員晩成型なんてこともあるかもしれないし、世代の話はトップクラスの馬たちが引退するまでナンセンスではないだろうか。
タスティエーラは調教の負荷に対して大幅な馬体重の増加があり、成長よりは調整失敗と考えたほうが納得できる。不利もあったようだし、今回の結果だけで次走軽視ということにはならない。
ソールオリエンスは位置取りが終わっていた。長距離の川田騎手は買うべきではない、というのはデータとして知ってはいたけれど、そこまで抜けた馬に乗っていないこともあって半信半疑ではあるのだ。それに、ソールオリエンス自身まだまだ幼いところがあるようだから、むしろ期待するなら来年以降と考えるべきなのかもしれない。

 

終わってしまった。ああ、本当に終わってしまったという感覚が強い。
この余韻だけで、あとはホープフルステークスを軽く楽しむだけで、競馬への熱意は春まで冬眠させることとしよう。
今年は三冠牝馬の誕生、最強馬の圧倒的パフォーマンスなどなど、過去を振り返っても比肩する年を探すのが難しいくらい、「強い馬の強い走り」を存分に味わえる一年だったように思う。
名レースを彩った強い逃げ馬たち、そして競馬界の主役は引退してしまったため、来年に目を向けると少しばかり寂しい気分にもなるけれど、リバティアイランドを筆頭に楽しみな馬たちは多い。
まぁ結局、競馬を引退することなどできないのだろう。