K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

一般人になってきた

異常なほどの興行収入を叩き出している劇場版「鬼滅の刃」無限列車編を観てきた。
テレビシリーズを一通り視聴済みなので、よく出来た作品だというのは知っていたけれど、こうも社会現象的に話題になっていると変に身構えてしまうもので、必要以上に期待と疑いの目を向けてしまうから困ったものだ。
まぁ上映が始まればそんな雑念は消えて、純粋に作品と向き合えるから私は劇場で観るのが好きなのだけれど。

 

流石に平日の朝9時台の回とあって、席の埋まり具合は1/3程度だったので左右が空いた状態でゆったりと鑑賞することができた。というか、平日の早朝なんてほとんど客なんていないのが普通だから、これでも十分に埋まっているほうなのだ。しかも、朝から晩まで一日中上映しているのだから、なおさらのことだ。
客層は若い男性から主婦まで、結構なかなかに幅広い感じがした。なるほど、これが社会現象……土日でないこともあって子供はいなかった気がするけれど、いわゆるオタクとか腐女子とかいった一定のレッテルを貼られがちな層が霞んでしまうくらいに、その場の空気は普通だった。
特殊な空気が作られること、作られないことの是非はどうでもよくて、とりわけよく感じたのは素直な驚きと拍子抜けの感覚だ。あまりにも普通の人々が、普通に観にきている。イメージとしては、昔よく観たコナンやポケモンなんかよりもさらに普通の、たとえばハリウッドのヒット作を鑑賞している時の雰囲気と近いかもしれない。

私が最も気にしていたのは、いくら面白いとは言っても原作が少年ジャンプに連載されていた漫画で、アニメのテレビシリーズは深夜に放送されていた作品だ。それが、一般大衆に受け入れられたジブリや新海作品を凌ぐ勢いで観客を動員しているという事実に……いや事実は事実なのだから懸念する意味など、もはやないのかもしれないけれど、そんなに多くの人の感性に合うものなのだろうか、という単純な疑問があった。
そもそもテレビシリーズの続編なわけで、あるいは大人気で品薄の原作漫画を読んでいるのかもしれないが、ともかく前提となるストーリーの知識が求められる。単発型の映画に比べて、その点においては不利なはずだった。しかし、実際には老若男女が劇場を訪れていて、歴代の中でも圧倒的な結果を見せている。これはどういうことだろう。

 

映画が終わってみて、先の疑問に対する答えが一つ浮かんだ。これは、別に単体の映画として観ても普通に面白いものだった、と。物語の事前知識があるに越したことはないけれど、序盤から中盤にかけての流れの中で、登場人物のキャラクター性にある程度の説得力を持たせる構成が出来上がっている。主人公がどういう人間で、敵対する存在がどういうもので、映画としての見せ場がどこなのか。これは周知の事実であるけれど、制作会社の手腕でもある。
それに、映画というのは一度観ただけでは細部なんて大して記憶に残らないものだ。ここぞという印象的な大きな見せ場が華々しく彩られていれば、観客は十分に満足するものだと思う。最高潮を盛り上げるための最大限の準備は、終盤に至るまでの90分ほどの間に、存分に注力して整えられているのだから。面白くないわけがない。

私は原作未読のため、映画の顛末は事前に知らなかった。ネタバレも回避していた。けれど、どうなるのかはだいたい予想できていて、そしてその通りになった。期待外れとはまったく思わなかったし、期待通りというか、むしろ少し上回ったくらいで……とてもいい作品だったと思う。
泣くところまではいかなかったけれど、いくつかのシーンではそれなりに感情が揺さぶられることになった。周辺から微かに啜り泣きのような音が聞こえてきた気がしたし、それに納得できるだけのものは見せてもらったように思う。

ただ、よい作品だったからといって、それが世間的な評価と等しいかと言われれば、首を縦に振ることは難しい。結論としては、やはり大ヒットの理由は不明なままだった、になるかもしれない。
これだけ勢いよく数字を伸ばしている背景には様々な要因があって、きっと一概に語れるものではないのだろう。映画そのものの出来だけではなく、アニメのヒットから続く熱の爆発でもあるだろうし、エンタメ的な意味での世の中の情勢とか溜め込まれてきた鬱憤の発散とか、まぁ可能性を探れば枚挙に遑がない。
ここまで話題になれば、それが新しい観客を呼び、さらに記録を打ち立てて話題となる。この好循環によって興行収入がどこまで伸びるのかは見物だし、しばらく国民的関心事の一つとなるのだろうと思う。

個人的には、これで歴代一位を塗り替えてしまうのはなんだかなぁという感覚があるけれど、それを決めるのは今を生きる人々だし、私自身も数字に貢献してしまっているので何も言えない。
むしろこれを機にアニメ界が盛り上がっていって、今後よりよい作品が次々と出てくればいいなぁくらいの気持ちだ。