K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

食欲

しばらく前からずっと、食欲が湧かなかった。病気とか、具合が悪いとか、そういうのとは関係ない。
食べ物に興味を持たず、ただ機械的に、時間になったから食事を摂るという日々が続いていて……そんなことだから栄養は偏るしエネルギーは不足するしで、体重の減少に繋がっていたのだと思う。
そういう意味で、今日は身体的な側面が好ましい方向に転換したと言ってもいい一日かもしれない。

 

朝は普通に起床して、いつものように適当に朝食を済ませただけだった。
気温は前日までとそれほど変わっていないはずなのに、食後しばらく動けなくなるくらい寒気に震えていたのを覚えている。
一応は食べているとはいえ、きっと熱量が足りないのだ。まぁじきに気温は上がってくるし、問題はないだろう。
そうは思ったが結局一時間は炬燵から出ることができなかった。

午前が終わり、正午を過ぎ、少し経過した頃、久しぶりに空腹感があった。
それはごく当たり前の生理的な感覚であるから、咄嗟に驚きはしなかったけれど、よく考えてみたら妙な現象だった。だってそれは、この数週間ずっと私の身体に起こっていない反応だったから。
腹が減るなんてことを、まさか再び感じることができるなんて。ちょっとした感動ものだ。ひたすら面倒で仕方なかった「食べるということ」にポジティブな感情を抱くなんて、いつ以来だろう。
急に食事の量や内容が変わることはないけれど、生きることの基本行動の一つに個人的な意味を見出だすことができるようになったのは、大きな変化のための第一歩という気がした。

夕刻を過ぎ、そろそろ夕食を考えなければならないという時間帯になって……いつもなら昼食から6時間程度の間隔を目安に食べることにしているのだけれど、今日は頭で考えるよりも先に身体が教えてくれた。
そろそろ頃合いだぞ、と胃が訴える。これもまた、すっかり忘れていた感覚だった。
昼に引き続き、空腹感を覚えるための中枢が生きているようだ。大事な器官を取り戻したような思いで、キッチンへ向かう。
普段は味なんて気にしないし、食べられればいいという考えでいることが多いせいか、あまり「うまい」と思うことがない。しかし今日の食事には、舌が欲を持ったらしい。しっかりと味を感じて、満足感を覚えることができた。

依然として食べすぎることはないし、一日の摂取カロリーは必要最低限レベルになってしまっているけれど、面倒だったことが面倒でなくなるというのは革新的な出来事だ。
普通の食欲を持った人間には、まるで理解できない内容の文章かもしれないが、私にとっては間違いなく記憶に残る一日になるだろう。
この空腹感と食欲が明日以降も続いてくれたら嬉しいのだが、どうなるかな。