K's Graffiti

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黄金世代の果て

タイミング的にはチャンピオンズミーティングの結果について記す日なのだが、本日の昼にウマ娘アプリ内に追加されたメインストーリー最終章の後編が、あまりにも満足度の高い内容だったので、取り上げないわけにはいかないと思った。
というわけで、恒例の長ったらしい結果報告は明日に回すことにする。

 

思い返せば一年半近く前……リリースされて間もない頃のウマ娘を遊ぶにあたって、その楽しみの中心はほとんど育成以外にはなかった。
この手のキャラクターゲームにありがちな「ストーリー」というものの価値を、私は真剣に考えたことがなかったのかもしれない。
ちゃんと読めば面白いこともあるのだろうが、基本的にはメインコンテンツに付属するオマケなのだろうと……初めて触れるまでは、そのような印象を抱いていた気がする。

今だから疑いなく言うことができる。
ウマ娘のメインコンテンツは、ストーリーであると。もっぱら、開発陣が力を入れているのが明らかなメインストーリーは、アニメやコミカライズに匹敵するレベルの見所に溢れたコンテンツであり、たとえ育成ゲームの部分に対して飽きや不満の感情が向けられることがあったとしても、これだけはあらゆるネガティブなイメージを跳ねのける魅力を秘めているのだ。
初期実装の第一章と第二章でプレイヤーをメインストーリーの世界に引き込み、不定期に追加されてきた第三章から第五章、そして最終章までの間に隙はなく、第一部という区切りの完結となる最終章の後編には多大な期待が寄せられていたように思う。
そうして上がりまくったハードルに応える面白さと感動だけでなく、心からびっくりするようなサプライズも含めて、追加された最後のストーリーの満足感と言ったら、もう筆舌に尽くしがたい。
第一章から物語を見てきた経験そのものが、ここに来てもう一度輝くような……積み重ねてきたものを上手く昇華させ、それでいて一貫したテーマを見せつけてくるストーリーに、競馬とウマ娘が持つ神がかり的な素晴らしさをあらためて実感した。

最終章自体は、アニメ一期と被る部分が多かったけれど、内容としては大きく変わっていた。
同じレースであっても、そこに至る過程やウマ娘同士の関係性や会話など、アニメはどちらかと言えばライトに、あるいはギャグ調にまとめられていたのに対して、メインストーリーではキャラクターそれぞれの感情の機微が精緻に描かれていたので、より感情移入しやすい構成になっていた。
また、アニメでは難しい3DとCGを駆使した表現がふんだんに使われており、映像面の迫力は圧巻、まるで映画を観ているような気分にさえさせられる。
アニメはアニメで別のテーマを軸として描写されているから、そもそも同じ基準で評価するようなものではないかもしれないが……メインストーリーにおけるキャラクターの物事への考え方やセリフなどは、アニメを意識して対照的に作ったような部分も見受けられたので、同じ時代を描いたコンテンツであるはずなのに、まったく異なる新鮮味を感じることができた。

本当に凄い世代なのだ。
私は当時の競馬をリアルタイムで追っていたわけではなく、知識として頭に入ってきたのはここ数年のことだ。
それでも、大きく感情を揺さぶられた。ドラマチックな史実があり、それを題材に創作する。その形に正解はないけれど、ある意味でこれが一つの正解の形なのではないかと素直に納得できてしまうのが、この一連のメインストーリーだったように思う。

 

ここで詳しく内容には触れないが、いくつか感じたことを適当に挙げていきたい。
まず、なんと言っても最終章後編の目玉であるモンジューの存在だろう。アニメでは「ブロワイエ」という名前で登場した凱旋門賞馬だが、メインストーリーにおいてはキャラクターデザインや性格などが異なる形で、名前はモンジューそのままに描かれた。
実際にどのような交渉があったのかはわからないけれど、アニメ放送当時にはウマ娘というコンテンツがあまり大きくなっていなかったこともあって、実名使用許可を取っていなかったのだろう。
しかし、ゲームであらためて黄金世代を描くには、やはり必要な存在だったということだ。こうしてゲーム内にモデルが作られ、ストーリーのクライマックスで大きく扱われているということは、国内だけでなく海外陣営との関係に好ましい進捗があったと考えてもいいのではないだろうか。
ロンシャンレース場もしっかり作られていたし、そのうちゲーム内に使用可能コースとして実装されるのではないかと思う。楽しみだ。

この最終章で最も存在感を発揮していたのは、もちろん主役であるスペシャルウィークなのだが、存在感の伸び具合で言えばツルマルツヨシがトップだと感じた。
ウマ娘への登場が告知されたのがアプリ一周年を過ぎてからという新参であるがゆえに、アニメでその姿が描かれることは一切なく、またゲーム一年目においても主要キャラの育成シナリオでは出てこないから、知らなかったという人も多かったはずだ。
私も、名前だけは過去のレース結果を見たことで認識していたけれど、ウマ娘になっていなかったらその馬生に興味を抱くことはなかったように思う。
体質が弱くクラシックレースに出走できず、けれど遅れたデビュー以降からは少しずつ結果を出していって、とうとう大舞台で走れるようになる。輝かしい道を走り続けるスペちゃんとの対比が目立ち、健気に頑張る姿を見て、ついつい応援したくなった。

メインストーリーには、物語そのもの以外にゲームとして楽しめる仕掛けが施されている。
最終章までの過程を思い出させるライブシーン、想いの継承という仕組みを使ったIF展開、感動的なEDの流れの中に待っている、とある要素……そして取得できるサポートカードの端に描かれている「謎のウマ娘」だ。

嬉しさと、期待と、あるいは複雑な感情が渦巻く。どうなるのだろう。これから、何が待っているのだろう。
メインストーリー第一部は、素晴らしい形で幕を閉じた。次がいつになるか不明だけれど、この先には新たな世代を中心にした第二部が始まる。メインストーリーだけでなく、追加されていくであろう新要素にも妄想が膨らむ。

歴史的大ヒットを記録したゲームではあるものの、なんだかんだリリースから時間が経ち育成システムへの鬱憤などが溜まってきたこともあって、育成ゲームとしてのウマ娘に少し嫌気が差している人も少なくないであろう今日この頃ではあるけれど、何か追加コンテンツがあれば大きく話題になるのが当たり前というあたり、まだまだ大きく成長余地を残しているコンテンツには違いない。
だいたい、多くの国民にとって絶対的な強みを持つ「競馬」と密接な関わりがあるのだから、そう簡単に廃れるはずがないのだ。
仮にゲームの勢いが落ちたとしても、競馬は変わらず続いていくし毎年のように名馬が誕生する。それらに寄り添って、愛によって生み出されるウマ娘という「概念」を止めることは、もうできないだろう。
この考え方が世に広まった時点で、もはや「ウマ娘」は永遠と言ってもいい。それを、黎明期たる現在にリアルタイムで熱中できているのは、幸運以外のなんでもない。