K's Graffiti

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『君たちはどう生きるか』感想

たまに映画館へ赴いて作品を楽しむことが趣味である私だが、最近のペースとしては二か月に一度くらいのものなので、今月に入ってから二度目の映画鑑賞に臨むことになろうとは、昨夜の時点では想像していなかった。
なんの話かというと、あのジブリの新作が本日から公開なのだ。世代的に、幼少期からジブリ作品を見せられて育ってきたわけなので、興味が湧かないわけはない。
そういうわけで、いつものように軽く感想を書いていこうと思う……のだけれど、実は上手く書ける気がしない。私は、これをどうやって表現したら良いのだろう。

 

そもそも本作の存在を知ったのが、今朝方のことだった。YouTubeでとある配信を視聴していたら、雑談の中で話題になり、配信後に観にいくという流れになった。当然、私も気になって仕方なくなる。
なぜ、知ったばかりの話なのに、急に惹きつけられてしまったかというと、この映画は宣伝がほとんど行われていないのだ。事前に公開されている主な情報はタイトルと、アオサギが描かれた一枚のイラストのみ。
作中の世界観や時代、登場人物などは一切が不明だし、キャストすら非公開だから事前に想像する余地がない。ただ、あの宮崎駿の新作が出るという事実だけが大衆に突きつけられている。
普通なら見向きもされず、目立つこともないであろう大胆な方針ではあるが、本当にジブリというネームバリューは凄まじい。都内だからかもしれないけれど、近場の映画館は朝から夜まで、ほぼ満席で埋まっていた。
天候や私の具合が極端に悪ければ、きっと別日を選択したことだろう。しかし、昨日も書いたように体調は若干の上向き傾向なので、当日の急な決断でも無理というほどではなかった。早朝の時点で僅かに空いていた座席を確保し、仮眠を取った上で観にいくことを決意する。
こういう風に情報の少ない作品は、その少ない状態のまま作品と向き合ったほうが、きっと楽しめるに違いないのだ。ネタバレの有無を問わず、下手に余計な情報に触れてしまうと先入観が混じる。純粋な意味で、作品と私の心とを突き合わせるためには、今日しかチャンスはなかった。
まぁ極端に出不精の私にしては、珍しく行動力を発揮したほうだろう。褒めてやりたい。

かくして劇場へと足を運んだ私ではあったが、果たしてそこから出てくる際には、頭の中を大変に困惑させられる羽目になった。
公開直後なので、内容に関する具体的なネタバレは抜きで純粋に感じたことを並べていくが……ハッキリ言って、これは大衆が求めるようなエンタメではないと思う。
第一印象は決して悪いものではなかった。ジブリが使うことのできる極上のリソースが投入されているだけあって、序盤はその映像美や独特な雰囲気に圧倒される。上映時間の前半部分は、どうなるのだろうという期待感……上質なわくわく感に包まれて、スクリーンから目を離すことができなかった。
私は特別にジブリオタクというわけではないのだが、ぼんやりと過去の作品を感じさせる描写、セルフオマージュのようなシーンが随所に挟まれていて、その点も必要以上に惹き込まれてしまった一端を担っていたかもしれない。なるほど、これがジブリの、パヤオの集大成か……などと感じてしまうのも、やむを得ない。

しかしながら、後半は非常に解釈が困難なシーンが連続する。いや、やっていることや、やりたいことは、なんとなくは理解できる。ただ、あまりにも抽象的なものの詰め合わせを乱雑に見せつけられているようで、これはなんなのか、あれはなんだったのか、と自分の中で合点が行かないうちに次々と新たな疑問が湧いてきて、いずれも最後まで回収されることなく終わってしまうのだ。
上に書いた「どうなるのだろう」への回答は「どうにもならなかった」。
もちろん、歴代のジブリ作品だって子供が容易に理解できるような構成のものは少ない。一見すると単純明快なトトロにしたって、「実はこうなのかもしれない」という妄想の余地が存在している。
けれど、本作は単純だとか複雑だとか、そういう次元の話ではないように感じたのだ。何か明確なテーマがあって、そのゴールに向かって練られた描写を積み重ねていった作品というよりは、なんとなく、監督の頭の中に浮かんだイメージを、できるだけそのまま取り出したような……あるいは、「何も考えるな」「何も感じるな」「忘れろ」とさえ言われているような気がする。
これは私の勝手な解釈ではあるけれど、とにかくそうした掴みどころのない展開が続くがゆえに、初見では消化不良にならざるを得ないし、仮に何度か観たとしても、ここから飛躍的に作品理解が深まるとは思えなかった。
だって、最初から「答え」なんて想定されていないのだろうから。きっと、そんなものはないのだ。そもそも、これは「作品」なのだろうか。
私の理解力が低すぎるだけで、識者に言わせれば含蓄に富んだ名作という評価になる可能性もある。このシーンにはこんな意図があって、暗にこういうことを示していたんだ……などと、後から専門家がご高説を垂れる姿を想像するのは簡単だ。
しかし、およそ直感的なレベルにおいては、帰宅後にざっくりTwitterを漁った感じでは、到底そのような印象を抱くことはできなかった。

 

物語なんて、所詮は創作者のオナニーであり、現実ではない紛い物、単なる幻想に過ぎない。幸いにも、他者がそれをコンテンツという形で生きる糧とすることはできるけれど、消費対象である以上、いつまでも拘泥していては明日からを生き続けることなんて難しい。消費者たる我々は、絶えず新しい刺激を追い求める必要があるのだ。
なんて、言葉にすると思った以上に陳腐になってしまって、いけない。ただ、あえてメッセージ性を見出すなら、私の場合はこういう風に捉えるのが最も次に繋がるように感じた。
本作を観て、心の底から面白かったと主張する人はおそらく存在しないか、いるとしたら私とは相容れない異次元の感覚を持つ怪物だと思う。
間違いなく言えるのは、そういうシンプルな「面白い」「面白くない」という軸だけで評価できる作品ではないということだろう。

ひとつだけ気になるのは、この令和の世の中で令和のコンテンツに慣れきった人間たちが、本作をどのように考えるのかという点だ。正直、私は価値観の大部分が平成中期から後期に形成されたと自覚しているので、近年の傾向には難色を示すことが珍しくない。いわゆるZ世代なんかとは、明らかに物事の判断基準が異なっている。
初日に映画館へ突撃するようなモノ好きは、往年の作品に親しみのある年齢層が高めの人間だと思うが、これからネット上で話題になって観る層が拡大していった時に、いったいどのような評判で落ち着くのかは興味があるところだ。