K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

生存記録(20240130)

これは隣人ではなく隣の隣、あるいはその隣くらいの、やや離れた部屋の住人に関する話なのだが、本日昼間にちょっとした出来事があったので記録しておこう。
何部屋分かの距離があるとはいえ、かなり壁の薄い住宅だから、誰かが外の通路を歩く足音や会話の声などは響いてきて、とりわけ神経質な私の耳には敏感に伝わってくるという事情があるわけだが……何やらガタガタという物音と、あまり穏やかには思えない声が聞こえてきて、どうにも気になったのだった。
ドアから顔を出すわけにもいかないから、インターホンのカメラを起動させて、外部の音声を取り込む形で状況を把握することにした。そこにいたのは大きな声で話す男と、小さな声で話す女だ。関係性としては、別に恋人とか友人とか、そういう類のものではなく、困っている住人と特定の作業を専門に行う業者という感じだった。どうやら、か細い声で喋ってる女が家に入れなくなったらしい。
インターホン越しの声なので明瞭ではなく、ところどころに聞き取れない箇所はあったものの、ざっくりまとめるなら、前日の夜に泥酔して鍵を紛失、そのまま帰宅できず困った女子大生が鍵屋を頼って開けてもらおうという流れらしかった。おそらく口振りからは、管理会社への連絡もしていない感じがする。身分証明になる物も未所持のようで非常に怪しさ満点だが、とにかく家の中に入りたいとのことで、業者に鍵をどうにかしてくれと依頼している模様だ。鍵の構造は、家の壁の薄さに対して非常に堅牢であるらしく、結論から言うとピッキングは困難で鍵自体を破壊するしかないようだった。そのための工具は持っているようだか、あまりにも躊躇がなくて私は困惑する。
しばらくすると、まるで工事をしているような機械音と鈍い振動音が伝わってきた。間にいくつかの部屋を挟んでいるとはいえ、全体が繋がっている共同住宅だから仕方ないが……その場で判断したことのようだから、やはり管理会社には何も連絡を入れていないだろう。非常識すぎて怖い。
音がしなくなってから数時間後、スーパーに行くため外出したのだけれど、その際に問題の部屋を軽く観察してみた。一見すると変化はない。ただ、よく比べてみるとシリンダーが別物に置き換わっている。鍵の形状も違うから、おそらく管理会社が持っている合鍵も使えなくなっているだろう。所詮は他人事なので勝手に通報する気にはならないが、こういう事態が平気で起こってしまうあたり、隣人の件も含めて民度が疑わしい。つくづく、入居を決めたタイミングに戻って判断をやり直したいと思わずにはいられなくなった。