K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

教える

案外、塾講師でもやってみたら成功するのではないかと思った今日の出来事について。
所用にて実家に戻り、想定していなかった面倒事を頼まれたのだけれど、無償で働いてしまうのが家族というものなので、私はいつになくやる気を出す。
何しろ、私の知識を活用して無知な人間に提言してやってくれという依頼だ。ここしばらく会話のない生活が続いていたから、怠けている脳を働かせるには誂え向きに感じた。


テーマは、パソコンだった。新しく買いたいから、見繕ってほしいとのこと。
しかし知識があるとは言っても、特別に詳しいわけではないのだ。現代の若者としては一般常識レベルではないだろうか。CPUやGPUの性能の進化について、たまにチェックするくらいで、最新のラインナップがどうなっているかなんて知ったことではない。
予習が必要だと思った。

パソコンなんて、用途次第で何もかも変わる。ノートがいいのかデスクトップがいいのか、Officeソフトを弄るのがメインなのかゲームで遊ぶのか。
構成によって大きく値段も変わってくるし、なかなかコレが正解と断言するのは困難な話で、だから私はパソコン機器専門店の主流の製品を見比べることにした。
個人的に、スペックは高ければ高いほどいいと思っている。たとえ使いこなせず無駄になる部分が多いにしても、低スペックパソコンを使っている時のストレスを回避できると思えば、なんてことはない。
調べていて気づいたのは、わりと手頃な価格で数年前のハイエンドを凌ぐ機器が手に入るということだった。技術の目覚ましい進歩に感謝、といったところだが、私が実はバカ高い時期に購入してしまっていたことに気づいたので、やや複雑な気持ちになる。
いくら要求スペックが上がっているからと言っても、コスパで考えるなら一昔前よりも今のほうがずっと恵まれているように思う。

そんなこんなで、おおよその目処は立ったので、あとは啓蒙するだけだ。
素人がショップのページを見ると、きっと意味不明な文字列が並んでいてわけがわからなくなるに違いない。そのあたりの認識力を高めてもらうために、まずは用語の解説から入ろうと思った。
iPadを使って、まるでパワポで資料を作るかのように図説を描いていく。学生時代や会社員の頃、プレゼンなんて好きでも得意でもなかったけれど、相手が家族となれば話は別だ。
言いたいことが自由に言える状況というのは、それだけで私を伸び伸びと活かしてくれる。自分でも驚くくらいに、わかりやすく説明するための準備を整えることができた。

ノートとデスクトップには、それぞれメリットとデメリットがあって、正しいほうなんてものはない。使い方に応じて買うものを選べばいい。
頭ではわかっていても、説明をしていくうちに、どちらにも魅力を感じてしまうものらしい。初めはノート一択という雰囲気だったのに、デスクトップにしようかと悩みだしたので面白かった。
私の過去の話をすると、実のところノートパソコンを使ったことがない。外に持ち出して作業をする機会が、私の生活パターンにおいては一切なかったのだ。
たとえば学生時代は、大学に据え付けられたパソコンを使えばよかった。スタバで優雅にカタカタ音を鳴らす人種でもないし、基本的に家の中でしか使わないとなれば、デスクトップ以外を検討する余地はなかった。
だから、世の中のパソコンユーザーの過半数がおそらくノート派という現実を前にして、不思議に思うことが珍しくない。慣れているから、知っているから、思うことかもしれない。デスクトップのほうが圧倒的に使いやすいのに、なぜわざわざノートなんて……などという、沸々と湧き上がる想いは心にしまったまま、私はデスクトップとノート両方の利点と欠点を説明し、いくつかの具体的な製品を紹介してみせた。

思っていた以上に、「教える」ということの手応えがよかったので、環境と準備さえ問題なければ、あるいは教鞭を執る道もあったのではないかと思わないでもない。
冗談はさておき、私の説明に相手はすっかり満足したようで、けれど却って選ぶのが難しくもなったようで、もう少し考えてから決めることにするという結論に至った。
まぁどちらにせよハズレを引くことはないだろうから、仮に後悔することになるとしたらパソコンに対する将来的な需要を読みきれなかった本人の責任になる。
私の仕事は終わったのだ。後のことは知らない。


この見返りのない作業に対するエネルギーを、もうちょっと日々の自分に費やすことができたらいいのに……とは思うものの、人間というのは求められ、頼られてこそ積極的に動けるようになるのかもしれない。
自分の中で自身に向けた強い要求を意図的に作り出せたら、きっとモチベーションに苦労することはないのだろう。
できるかわからないが、可能であればいずれ身につけたい技術だと思っている。