K's Graffiti

文章を書いたり絵を描いたりします。

歯科治療とマスク

月に数回の外出予定日といえば……そう、歯医者だ。
こういうご時世なので、たとえば定期的な買い出しは通販やネットスーパーを活用することで省略できるし、「データ」を扱う仕事であれば家から一歩も出ずに稼ぐことだってできる。
ただ、どれだけ科学が進歩しても自らの肉体はここに存在しているわけで、そのメンテナンスを行うためには、遠隔では不可能なこともある。SF的な形で完全に電子世界で生きることが可能にでもならない限り、これは誰しもが現世において受けている呪縛と言ってもいいだろう。

 

年末年始の休暇を挟んだため、およそ三週間ぶりの通院となった。丁寧な処置を施してくれるからこそ安心して通えてはいるのだが、その分だけ治療の進行速度は緩やかだ。
初めて赴いたのが昨年の十月末頃だったが、全体の治療計画を鑑みるに、約二週間後に予定している次回でようやく半分といったところなので、早くても四月の半ば以降までは時間を要する見込みとなる。
一昔前のいい加減な歯科医であれば、最初から抜歯してしまい銀歯を入れて完了、となっていた可能性もある。それと比べたら金も手間も必要だけれど、歯のストレスが生活に及ぼす悪影響は理解しているつもりだから、ここは長期的な辛抱を受け入れるべきだと考えている。

本日の治療内容は、消毒が完了した奥歯の土台部分を整えるというものだった。
初回治療から年末にかけては、虫歯で駄目になった部分を削ったのち、中の神経を取り除いて、さらに奥部までをじっくり消毒するプロセスだった。そしていよいよ、くり抜かれた歯の内部が浄化されたため、あとは丈夫な素材を被せるための土台作りが必要な段階に入ったというわけだ。
専門家ではないから、実際に何をしているのか、具体的な手順などは知らないけれど、いくつかの薬品を使って削った歯の内部から歯茎に至るまで、基礎工事を行うイメージだったと思う。
薬の独特のにおいがきつくて、何度も呼吸が苦しくなったものの、どうにか我慢することができた。繰り返し口を上下左右に引っ張られた関係で、唇がボロボロだ。冬の乾燥用にと思い、以前リップクリームを買っておいて助かった。
私は過去に大掛かりな歯科矯正を経験しているから、ある程度は口の中を激しく弄られることに慣れがある。しかし世の中には、そうでない人のほうが多いだろうから、わりと一般的であろう歯医者に行くのを嫌がる感覚というのを、少しだけ理解できた気がする。

 

ふと帰り道に思った。
マスク着用が浸透していなかったら、ひどい顔を道行く人々に晒してしまっていたかもしれない。
今日は麻酔を打ったせいで唇周辺がだらしない挙動をしているし、歯型を取ったから口の周りにはみ出た材料が付着している可能性がある。マスクがなければ、迂闊に歩き回れないくらいに口回りの環境が悪化しているのだ。
かつて、矯正治療時代にも何度かあった。ピンク色の乾いた歯型取りの欠片を付着させたまま移動する恥ずかしさを、私は知っている。帰宅してから鏡を見て、驚愕するのだ。なんだ、この顔は。

マスクさえあれば、そんな心配は不要だ。
たとえコロナが消え失せたとしても、もう外出時にマスクなしの生活には、きっと戻れないだろう。